こうして『愛の不時着』にハマった人が『梨泰院クラス』に流れるというのが定番ルートだ。こちらも従来の恋愛ドラマではなく、父親を死に追いやった大手外食企業の会長親子に復讐するため、自身の居酒屋を大企業へと成長させる復讐劇となっている。
「このドラマの新しさは、“母親”の存在を感じさせないところ。家族の結束が強い韓国では、母親はストーリーに欠かせず、主要な役回りに必ずと言っていいほど登場します。しかし『梨泰院クラス』はほぼ母親が登場せず、家族よりも“仲間”に焦点を絞った。韓国ドラマの新しい形を作り上げた画期的な作品です」(康さん)
ラブロマンスに興味のない男性や、バリバリ働く30~40代の人たちからも支持され、韓国ドラマはますます幅広く愛されるようになった。見る者を魅了する理由は、第一に「脚本の力」だという。
「韓国は、昔の朝鮮王朝時代から“武力”より“文”の国なんです。儒教の影響もあり、文で身を立てることを最大の栄誉と考えている。だから脚本にけた違いのエネルギーを注ぎます。作り手も脚本の重要性を理解しているので、韓国で脚本家になるには名のある人に5年くらい弟子入りして徹底的に鍛えられ、その中で才能のある人にだけ次のチャンスが回ってくる。デビューは狭き門ですが、脚本家を目指す人も多いので、優れた書き手が次から次へと輩出されるのも特徴です」(康さん)
さらに俳優も「顔がいいから」というだけでは決してキャスティングされない。韓国には演劇や映像に関する大学が40以上あり、学生たちはギリシャ哲学から始まり、高等な演劇論を切磋琢磨しながら身につけるという。チャン・グンソクも大学で演劇の専門教育を受けている。