岸信介は東條内閣の閣僚として「宣戦の詔書」に署名し、戦後は総理として日本の自立と復興に力を尽くした。一方、安倍寛は反東條の立場で戦争に反対した。この2人の祖父を持つ「政治的ルーツ」は、晋三にとって戦後日本の指導者として誇りになり、武器にもなるはずだ。

 父・晋太郎からも、祖父・寛の政治家としての覚悟や行動を聞かされて育ったはずである。それなのに晋三は、「岸の孫」であることは強調しても、「寛の孫」であるとは決して口にしようとしない。タカ派政治家としての立場から、いわば「反戦リベラル」的な思想の持ち主だった寛を“政治的ルーツ”と認めたくないからだろうか。そうとは考えにくい。

 なぜなら、冒頭で紹介したベテラン秘書の証言のように、晋三はまだ右も左も定まらない“政治家の卵”だった初出馬のときから、選挙戦で「安倍寛の孫」とアピールすることを拒否していたからだ。

 筆者には、父・晋太郎に対する反発が、父方の祖父・寛の否定につながっているように思えてならない。

 安倍父子の微妙な関係については、拙著(『安倍晋三 沈黙の仮面』・小学館)に詳しいが、晋太郎は幼い頃に両親が離婚、若い頃に父を亡くして育ち、愛情表現が不器用だった。息子・晋三も自分の考えを押し付けてくる父に反発し、距離を置いているように感じられた。

 そのことが、父が受け継いだ祖父・寛の反戦思想への反感につながっているのではないか。

 晋三が若き日の共著『「保守革命」宣言』(1996年刊)の中で岸と晋太郎について書いた文章からその一端が読み取れる。少し長くなるが引用する。

関連キーワード

関連記事

トピックス

主演映画『碁盤斬り』で時代劇に挑戦
【主演映画『碁盤斬り』で武士役】草なぎ剛、“笠”が似合うと自画自賛「江戸時代に生まれていたら、もっと人気が出たんじゃないかな」
女性セブン
かつて問題になったジュキヤのYouTube(同氏チャンネルより。現在は削除)
《チャンネル全削除》登録者250万人のYouTuber・ジュキヤ、女児へのわいせつ表現など「性暴力をコンテンツ化」にGoogle日本法人が行なっていた「事前警告」
NEWSポストセブン
水卜麻美アナ
日テレ・水卜麻美アナ、ごぼう抜きの超スピード出世でも防げないフリー転身 年収2億円超えは確実、俳優夫とのすれ違いを回避できるメリットも
NEWSポストセブン
撮影現場で木村拓哉が声を上げた
木村拓哉、ドラマ撮影現場での緊迫事態 行ったり来たりしてスマホで撮影する若者集団に「どうかやめてほしい」と厳しく注意
女性セブン
5月場所
波乱の5月場所初日、向正面に「溜席の着物美人」の姿が! 本人が語った溜席の観戦マナー「正座で背筋を伸ばして見てもらいたい」
NEWSポストセブン
電撃閉校した愛知
《100万円払って返金は5万円》「新年度を待ったのでは」愛知中央美容専門学校の関係者を直撃、苦学生の味方のはずが……電撃閉校の背景
NEWSポストセブン
遺体に現金を引き出させようとして死体冒涜の罪で親類の女性が起訴された
「ペンをしっかり握って!」遺体に現金を引き出させようとして死体冒涜……親戚の女がブラジルメディアインタビューに「私はモンスターではない」
NEWSポストセブン
氷川きよしの白系私服姿
【全文公開】氷川きよし、“独立金3億円”の再出発「60才になってズンドコは歌いたくない」事務所と考え方にズレ 直撃には「話さないように言われてるの」
女性セブン
”うめつば”の愛称で親しまれた梅田直樹さん(41)と益若つばささん(38)
《益若つばさの元夫・梅田直樹の今》恋人とは「お別れしました」本人が語った新生活と「元妻との関係」
NEWSポストセブン
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
NHK次期エースの林田アナ。離婚していたことがわかった
《NHK林田アナの離婚真相》「1泊2980円のネカフェに寝泊まり」元旦那のあだ名は「社長」理想とはかけ離れた夫婦生活「同僚の言葉に涙」
NEWSポストセブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン