8年近くにわたる長期政権が終わった。安倍晋三・前首相が辞意を表明するまでの支持率低下とは一転、朝日新聞の世論調査では安倍政権を「評価する」と答えた人が71%に上った。在任中は多くの批判を浴びた安倍氏だが、その一方で熱烈な支持を集めていたことも事実だ。辞任直前の8月22日にノンフィクションライターの石戸諭氏とジャーナリストの江川紹子氏が行なった対談は、支持と批判が同居する安倍政権の特徴を捉えた議論となった。
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石戸諭(以下、石戸):僕は刊行した『ルポ百田尚樹現象』の取材をする中で、安倍政権が長期にわたって続いていることと、百田尚樹さんが支持される現象は、けっこう似ているんじゃないかと感じていました。安倍政権を支持しない人々は、これまで森友・加計問題にしろ、桜を見る会にしろ、安倍政権がいかに駄目かということを繰り返し指摘してきました。
僕も批判には賛同しますし、ひとつひとつが、これまでなら政権が崩壊してもおかしくない話だったと思います。ところが、それでも安倍政権を絶対に支持するという人が少なからずいるから、ここまで長期政権になったわけです。
百田尚樹さんも、『日本国紀』や『殉愛』などの著作で事実の間違いについて、あるいはツイッターや右派論壇誌で繰り返してきた中国や韓国に対する過激な発言について批判を浴びています。しかし、それでも多くの読者がいてベストセラーを連発している。この2つの現象には共通点があるように思えたんです。
江川紹子(以下、江川):安倍さんや百田さんを、批判している人はたくさんいるけれど、その批判は彼らの支持者には届いていません。いくら事実を突きつけ、間違いを指摘しても、それだけでは支持者の人たちの心に響かない。もちろんファクトチェックは大切なのですが、彼らにとっては事実よりも、思いや気持ちのほうが重要なんでしょう。
例えば、安倍さんは選挙戦の最終日に秋葉原駅前で演説することを恒例にしています。そこには多くの支持者が集まり、日の丸の旗を振りながら安倍さんが来るのを待っている。あの様子を白黒写真に撮ってみると異様な感じがしましたが、その場にいる人にはそこまでの深刻さが感じられない。
そして、演説が終わって安倍さんがいなくなると、今度はマスコミに向かってシュプレヒコールをあげ始める。NHKや朝日新聞に対して批判を始めるわけです。ところが、その中身を聞いていると、とにかくあまり理屈はないんですね。その場でわかりやすい敵を名指ししているだけといった感じで、ある種お祭りみたいな感じになっている。
石戸:百田さんが出演するYouTube番組『真相深入り!虎ノ門ニュース』の会場の前には、毎回多くの百田さんのファンが訪れます。番組の休憩中と、終了後に百田さんがサイン会をするので、彼の著作を持って見に来くるんです。ちょうど去年の改元前後の10連休では、100人以上が集まり、隣のビルまでずらりと列をつくっていました。ここまで熱烈なファンを抱え、しかも毎週のようにファンと直接、接点を持とうとする作家というのは、ちょっと他では思いつきません。
僕はこうした現象を目の当たりにしたときに、百田さんや安倍さん個人の問題を追及するのではなく、なぜ百田さんがこれほど支持を集めているのか、あるいは安倍政権がなぜ長期にわたって生きながらえているのか、という問いを立てるべきだと思いました。そのほうが、今の社会を見えやすくする見取り図になるんじゃないかと。