かつては通勤ラッシュ時に座席を折り畳んで収納できる「6扉車両」がJR山手線で運行されていた(時事通信フォト)

かつては通勤ラッシュ時に座席を折り畳んで収納できる「6扉車両」がJR山手線で運行されていた(時事通信フォト)

 京阪の5000系は片側に5枚の扉がある。鉄道車両は扉の数が多いほど、短時間で多くの人が乗り降りできる。そのため、多扉車は混雑対策にも有効とされてきた。しかし、扉が多くなれば座席は少なくなる。その分だけ乗客は立つことになるが、それは一度に多くの人が乗車できることになり、混雑緩和につながる。こうした事情から、混雑する朝ラッシュ時に5枚扉の5000系は大活躍した。

 一方、扉が多い車両はデメリットもある。扉を多く設ける構造上、座席が少なくなってしまうので、空いているなら座って移動したいという乗客のリクエストを満たすことが難しい。朝の通勤時間帯はそれがメリットでもあるが、利用者の多くない昼間帯は座れる人が限られてしまうのでデメリットになる。

 電車内で座りたいと考える利用者は少なくない。乗客に満足してもらうためにも座席を少しでも増やしたい。わがままとも思えるような相反したリクエストを両立させたのが、座席昇降装置を搭載した京阪の5000系だった。

 山手線などでも、混雑時にイスを収納して定員を増やすタイプの車両はあった。座席を収納するという意味では5000系も同じだが、京阪がそれらの車両と大きく異なるのは座席の収納方法だった、5000系の座席は電動で昇降して上部に収納される。

 座席が電動で昇降する光景は斬新かつ衝撃的だった。まさに、技術の京阪の名に相応しい技術でもあり、それがファンの心を掴む。そして”降ってくる座席”と呼ばれるようになり、動画サイトで公開されると広く人気を博した。

「座席の昇降作業は、終着駅でお客様が全員下車した後や車庫内で実施しています。そのため、お客様が実際に車内で昇降する座席を見ることはできません。しかし、テレビや動画サイトで目にした方も多いかもしれません」(同)

 座席昇降装置は、混雑時に多くの人が乗車できるように座席を上部に上げて空間を確保。利用者の少ない昼間帯は、座席を下げて多くの人が座れるようにといった具合にフレキシブルに活用された。だが、コロナで混雑が大幅に緩和され、さらに人口減少・高齢化により通勤需要が減退した昨今において、座席を昇降させる工夫は必要なくなった。

 そうした事情に加えて、安全対策として鉄道会社に課されたホームドアの整備が進められていることも昇降する座席が消える一因になっている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

亡くなったことがわかったシャニさん(本人のSNSより)
《ボーイフレンドも毒牙に…》ハマスに半裸で連行された22歳女性の死亡が確認「男女見境ない」暴力の地獄絵図
NEWSポストセブン
長男・正吾の応援に来た清原和博氏
清原和博氏、慶大野球部の長男をネット裏で応援でも“ファン対応なし” 息子にとって雑音にならないように…の親心か
週刊ポスト
殺害された谷名さんの息子Aさん
【青森密閉殺人】手足縛りプラスチック容器に閉じ込め生きたまま放置…被害者息子が声を絞り出す監禁の瞬間「シングルで育ててくれた大切な父でした」
NEWSポストセブン
竹内涼真と
「めちゃくちゃつまんない」「10万円払わせた」エスカレートする私生活暴露に竹内涼真が戦々恐々か 妹・たけうちほのかがバラエティーで活躍中
女性セブン
史上最速Vを決めた大の里(時事通信フォト)
史上最速V・大の里に問われる真価 日体大OBに囲まれた二所ノ関部屋で実力を伸ばすも、大先輩・中村親方が独立後“重し”が消えた時にどうなるか
NEWSポストセブン
2050年には海洋プラスチックごみが魚の量を上回ると予測されている(写真/PIXTA)
「マイクロプラスチックが心臓発作や脳卒中の原因になりうる」との論文発表 粒子そのものが健康を害する可能性
女性セブン
攻撃面では試行錯誤が続く今年の巨人(阿部慎之助・監督)
広岡達朗氏が不振の巨人打線に喝「三振しても威張って戻ってくるようなのが4番を打っている」 阿部監督の采配は評価するも起用法には苦言
週刊ポスト
大谷が購入した豪邸(ロサンゼルス・タイムス電子版より)
大谷翔平がロスに12億円豪邸を購入、25億円別荘に続く大きな買い物も「意外と堅実」「家族思い」と好感度アップ 水原騒動後の“変化”も影響
NEWSポストセブン
杉咲花
【全文公開】杉咲花、『アンメット』で共演中の若葉竜也と熱愛 自宅から“時差出勤”、現場以外で会っていることは「公然の秘密」
女性セブン
被害者の渡邉華蓮さん
【関西外大女子大生刺殺】お嬢様学校に通った被害者「目が大きくてめんこい子」「成績は常にクラス1位か2位」突然の訃報に悲しみ広がる地元
NEWSポストセブン
京急蒲田駅が「京急蒲タコハイ駅」に
『京急蒲タコハイ駅』にNPO法人が「公共性を完全に無視」と抗議 サントリーは「真摯に受け止め対応」と装飾撤去を認めて駅広告を縮小
NEWSポストセブン
阿部慎之助・監督は原辰徳・前監督と何が違う?(右写真=時事通信フォト)
広岡達朗氏が巨人・阿部監督にエール「まだ1年坊主だが、原よりは数段いいよ」 正捕手復帰の小林誠司について「もっと上手に教えたらもっと結果が出る」
週刊ポスト