飲食店の店先に置かれた休業を知らせる看板(イメージ、時事通信フォト)

飲食店の店先に置かれた休業を知らせる看板(イメージ、時事通信フォト)

「家賃などの固定費はかかるとして、店を開けたらスタッフの人件費に水道光熱費、食材や酒代、氷代もかかります。夕方から夜8時まで開けていても、売り上げは1~2万円以下。それならば、いっそのこと完全に休みにした方が効率的。周りの店がそうやってどんどん休むようになっていき、私も悩みましたが、結局店は緊急事態宣言明けまで休むことになりました」(横井さん)

 休んでもらっているスタッフへの給与の支払いもあるが、何もせずに6万円をもらえるのは大きく、どうしても避けられない家賃の支払いをしても、一ヶ月で100万円以上手元に残る計算だ。横井さんは最初、この間に新しいメニューを考えたり、銀行をはしごして借入金を利息の安いプランへ変更するなどして、来るべき日に備えようとした。しかし、周囲の飲食店経営者仲間は、毎日、昼間から飲み歩いているという。

「一時的に手元の現金が増えたからというのはもちろん、この一年間、本当に死ぬような思いをしてやってきたので、ここにきて緊張の糸がプツッと切れた感じがしますよ。一般のお客さんはほとんど来ませんから、仲間同士でお互いの店に集まっては金を落としあってね」(横井さん)

 銀行やサラリーマン金融から金を借り、なんとかここまで店を維持してきたという飲食店経営者仲間の多くは、一時的に増えた金を借金の返済に回さず、中には家族旅行に出かけたものもいるという。自身も含め、完全に感覚が狂っているのではないかと感じているのだ。

「ずっと地獄が続いて、昨年の秋頃にやっと希望が見えてきたと思うと年末にかけてまた地獄。もうダメだと諦めかけた時に一ヶ月で180万円の補償でしょう? 昨日までは1000円の金にだってヒイヒイ言っていたのに、いきなりバブル。宝くじに当たったような感じ。その差が激しすぎて感覚が狂い、家族旅行に行った人もいれば、仲間同士の飲み会では『ベンツを買う』などと豪語する人もいる」(横井さん)

 地元の商店街関係者からは、飲食店には手厚い補償がなされるのに、衣料品店や雑貨店への補償がないのはおかしいと声が上がり、にわかにバブルに湧く飲食店経営者に「商店街の運営費用を渡せ」という主張する人もいる。飲食店主とそれ以外の商店主の間に軋轢が発生し、長く続いてきた人間関係が崩壊したという例もある。アフターコロナの「不安」が、すでに顕在化しているのではないかと考えているのだ。

「緊急事態宣言が終われば、補償も終わるでしょう。(休業協力金がもらえる)二ヶ月間が終わっても、すっかり生活習慣が変わってしまったお客さんたちが、以前のように店にきてくれる可能性は少ない。飲食店は良い思いをしてきたと攻撃される可能性もあるし、商店街では白い目で見られるかもしれない。以前のように堂々と元気に営業できるのか、そもそも我々自身があまりに疲弊した挙句、協力金に浮かれてしまい、元のようなモチベーションで店に立てるのか。そんなことを考えていると、もう飲まなきゃやってられない、そんな気持ちにはなりますね」(横井さん)

 東京都内で立ち飲みスタイルの居酒屋店を経営する吉野奈緒美さん(仮名・30代)も同じような「アフターコロナ」への不安を口にする。

「(1日6万円の)協力金は本当にありがたかったのですが、それでは足りないという店とそれで十分すぎる私たちのような店とで対立するようなこともあり、人間関係がすっかり変わってしまいました。私も正直、協力金があることで気持ち的には楽ですが、コロナ後もお客さんは戻らないでしょうし、先の見通しが全く立たない。協力金が出る間は店を続けますが、春以降は店を畳むことも考え始めました」(吉野さん)

 希望と不安が渦巻く「アフターコロナ」の展望。飲食店関係者に限らず、ライフスタイルが完全に変わってしまったことで、以前のように仕事や商売ができなくなってしまう人は少なくないだろう。希望が見え始めたからこそ感じる不安。本当の意味でパンデミックを乗り越えるには、こうした葛藤も克服していかなければならない。

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