恒例の“高座での生着替え”を経て、最後は『御神酒徳利』。もともと持っているネタで、しばらく演っていなかったけれども、今またマイブームを迎えているのだという。

 自分で隠した御神酒徳利を算盤占いと称して見つけたことで窮地に陥る『御神酒徳利』には二種類あり、六代目圓生や三代目三木助が演っていたのは、旅籠の番頭が大阪の鴻池の娘の病気を治してハッピーエンドに至る噺だが、昇太の『御神酒徳利』は八百屋が出入りの大店の女中を困らせるために徳利を隠す、別名“占い八百屋”。五代目小さんが演っていた型で、昇太は八百屋の“お調子者”キャラをハジケた演技で明るく描き、大いに笑わせた。

 2019年10月以来の「オレスタイル」。“滑稽噺の天才”昇太の真骨頂を存分に味わう至福の2時間だった。

【プロフィール】
広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。『21世紀落語史』(光文社新書)『落語は生きている』(ちくま文庫)など著書多数。

※週刊ポスト2021年3月19・26日号

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