春風亭昇太一覧

【春風亭昇太】に関するニュースを集めたページです。

林家木久扇(撮影・小倉雄一郎)
林家木久扇が見た「日曜夕方の伝説司会者たち」、その意外な素顔
 国民的長寿番組「笑点」(日本テレビ系)で、おバカキャラの“黄色い人”として大人気の林家木久扇さん。今日も日本じゅうに、バカの素晴らしさと底力を見せつけている。最新刊『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)が話題の木久扇さんに、座布団の上から見た歴代司会者の知られざる素顔を語ってもらった。(構成・石原壮一郎) * * * おバカのスーパースター林家木久扇です。おかげさまで、街を歩くと小さな子どもからも「あ、おバカの人だ」と指をさしてもらえます。こんなありがたいことはありません。 ぼくが「バカ」を看板にできているのは、ひとえに「笑点」のおかげです。大喜利メンバーになって今年で足かけ54年目。番組や寄席でよくネタにしていますが、その間に5人の司会者を送りました。そのたびに香典代が3万円ずつ……。感謝の気持ちを込めて、偉大な5人の歴代司会者と今の司会者の春風亭昇太さんについてお話しましょう。●初代司会者・立川談志さん(1966年5月~1966年11月) 初代司会者は、番組の生みの親でもある七代目立川談志さん。当時、落語が何となく敷居が高い芸になりかけていました。談志さんには「どうにかしないと、このままじゃ落語が滅びてしまう」という思いがあったんですね。それで「笑点」を立ち上げたんです。 談志さんが心配したように、もし「笑点」がなかったら、今ごろ落語はどうなっていたことか。先見の明がある人でしたね。まさに天才だったし、努力家でもありました。「笑点」の大喜利は、牢名主のイメージなんです。時代劇を見てると、牢名主は新人の畳を取り上げて、それを重ねて高いところで威張ってる。そこからの発想です。談志さんはさらに、大喜利という場を落語の世界の長屋に見立てた。司会者は大家さんで、メンバーが店子。歌丸さんが小言幸兵衛、小園遊さんはキザな若旦那、こん平さんは田舎から出てきた権助と、それぞれ役を割り振りました。 ぼくが大喜利メンバーになったのは、談志さんが衆議院選挙に立候補するからと司会を降りた次の週からです。ただ、その前から若手大喜利に出してもらったり、同じプロダクションでアドバイスを受けたりしていました。「笑点」のスタッフにぼくを推薦してくれたのも談志さんです。レギュラーメンバーになってから、談志さんに「木久蔵は与太郎だよね。その線で行ってみな」と言われました。そこでぼくの進む道が決まったんです。 味方も敵も多い人でしたが、すごい人であるのは間違いありません。ぼくや「笑点」にとってはもちろん、落語界にとっても大恩人です。●二代目司会者・前田武彦さん(1969年11月~1970年12月) 立川談志さんのあとを受けて二代目司会者になったのが、放送作家から売れっ子タレントになった前田武彦さん。談志さんの推薦だったそうです。同じ時期に「巨泉×前竹のゲバゲバ90分!」や「夜のヒットスタジオ」にも出てらっしゃいました。 司会がマエタケさんになったのと同時に、ぼくも大喜利のレギュラーになったんですけど、最初は右も左もわからず、あんまりおもしろい答も言えませんでした。「木久蔵は降ろしたほうがいい」という声もあったようです。「自分が好きなものをネタにするといいんじゃないか」という先代の円楽さんの助言もあって、半ば破れかぶれで、鞍馬天狗の声色で「杉作、ニホンの夜明けは近い!」と言い始めました。それが大ウケしたんです。 マエタケさんは器用で頭の回転も速い方でしたが、発想やリズムがバラエティ番組っぽくて、落語の世界のそれとはどうしても違いがある。メンバーにはちょっと不満があったようです。お互いにやりづらかったんじゃないでしょうか。でも、鞍馬天狗のネタを拾って伸ばしてくれたのは、マエタケさんです。とっても感謝してます。 マエタケさん時代に生まれたのが、大喜利メンバーのカラフルな着物と、今も流れているオープニングテーマです。オープニングテーマは中村八大さんの作曲で、今はメロディしか流れていませんが、歌詞もあるんです。「ゲラゲラ笑って見るテレビ」で始まるんですけど、作詞したのはマエタケさんで、ご自分で歌っていました。●三代目司会者・三波伸介さん(1970年12月~1982年12月) 50代以上の方にとっての「笑点」は、三波さんが司会のときのイメージが強いかもしれませんね。歴代最高視聴率の40.5%(ニールセン調べ、関東地区)を記録したのも、三波さんが司会をなさっていた1973年のことです。 あの方は、ぼくたち大喜利メンバーの個性を引き出しつつ、全体を楽しく盛り上げる手綱さばきが見事でした。大衆演劇の出身でコメディアンですから、いろんな笑いの寸法が頭に入ってるんですね。歌丸さんと小園遊さんの罵り合いや、ぼくの「いやんばか~ん」が番組の名物になったのも、三波さんが上手にリードしてくださったおかげです。 若い頃に浅香光代さんの一座にいたこともあって、演劇にはめっぽう詳しかったですね。番組の特番で歌舞伎の『勧進帳』をやったときに、ひとりずつ細かい動きを振りつけてくれたのはビックリしました。セリフから見得の切り方から、全部頭に入っているんです。三波さんのお得意のフレーズじゃないけど、「ビックリしたなあ、もう」でしたね。 映画のこともよくご存じで、モノマネも得意でした。ぼくが大喜利で昔の映画スターのモノマネをやると、掛け合いでモノマネをかぶせてくれるんです。「丹下左膳」の大河内傅次郎さんの口調で「シェイはタンゲ、ナはシャゼン」なんて言ったりして。「笑点」が人気番組としてお茶の間に定着したのは、三波さんのおかげです。もっとたくさん、古い映画の話とかしたかったですね。●四代目司会者・三遊亭圓楽さん(1983年1月~2006年5月) 三波さんの次が、先代の五代目三遊亭圓楽さんです。番組が始まったときからの大喜利メンバーでしたが、「落語に専念したい」と言って、1977年に番組を一回「卒業」しました。三波さんが急死して、司会者として戻ってきてくれたんです。 本人は「最初は2回だけのピンチヒッターって約束だったんだ」と言ってましたが、それから23年にわたって司会を務めました。今のところの最長記録です。圓楽さんに戻ってきてもらうのは、大喜利メンバーの願いでもありました。 圓楽さんは「落語界をどうにかしなければいけない」と、いつも考え続けていました。幕末の志士みたいに熱い想いを持った人でしたね。「笑点」を降りたちょっとあとに、師匠である六代目三遊亭圓生師匠とともに落語協会を飛び出したんですけど、それから1年ちょっとで圓生師匠が亡くなりました。 今さら協会に戻れないから自分の一派を作って、弟子たちに修行させる場が必要だからと、大きな借金を背負って「若竹」という寄席も建てたんです。結局「若竹」は4年半で閉めることになりましたが、番組の中では長くネタになっていましたね。 司会を長く続けたのも立派ですけど、「笑点」におけるあの方の最大の功績は、六代目三遊亭円楽さんと三遊亭好楽さんをメンバーに入れたことですね。ふたりが長くメンバーを続けているってことは、圓楽さんの見る目が確かだったってことです。それにしても、いくら番組の最初から関わっているとはいえ、出演者が人事をいじれたというのがすごいですよね。●五代目司会者・桂歌丸さん(2006年5月~2016年5月) 桂歌丸さんも、番組が始まったときからの大喜利メンバーです。2018年にお亡くなりになりましたが、その後も「永世名誉司会」の肩書を背負ってらっしゃいます。 あの方は「横浜バカ」でしたね。玉置宏さんから引き継いで「横浜にぎわい座」の館長をやったりとか、生まれ育った横浜をとても大事にしていました。にぎわい座でぼくと木久蔵の親子会をやったときは、とても喜んでくれましたね。会話に「横浜」って単語を入れるだけで、ニコッと笑うんです。「横浜のシウマイ弁当おいしいですよね」なんて言ったら、「そうそうそうそう!」ってすごく嬉しそうな顔をして。 あまり表に出していませんでしたけど、ぼくと同じ「チャンバラバカ」でもあったんです。このあいだ歌丸さんのご長女が、ぼくのところにチャンバラ映画のVHSのビデオを段ボールに3箱くださったんです。なかには封を切っていないのもありました。いつか見ようと思って買ってたんですね。 落語に対する情熱は言わずもがなで、古典落語を一生懸命に勉強して、自分だけの「歌丸節」を確立したのはすごいことです。ただ、若い時分から病気をたくさん抱えていて、お酒は飲まなかったんですけど、薬をたくさん飲んでいました。 以前は番組収録後にお蕎麦屋さんで打ち上げをやっていたんですが、そこには参加しませんでしたね。付き合いが悪いわけではなく、身体をかばっていたんだと思います。●六代目司会者・春風亭昇太さん(2016年5月~現在) 歌丸さんに代わって春風亭昇太さんが司会者になって、もう6年近くになるんですね。早いもんです。次は誰を司会にするのがいいかって話のときに、歌丸さんが「番組を若返らせるには昇太さんがいいよ」と推薦したらしいです。 昇太さんの司会は、とってもやりやすいですね。手を挙げて目が合うと、「はい、木久扇さん」ってパッと指される。歌丸さんは「木久ちゃん3回」「好楽さん2回」とかって、きちっと計算しながら指してました。でも昇太さんは、自然な流れでどんどん指しちゃう。いっぱい答えさせて、あとは編集に任せるんですね。答えるこっちは伸び伸びとやれます。 今年の初めから、新メンバーの桂宮治さんが入りました。彼のおかげで「笑点」に新しい笑いの波がやってきて、また次の時代がスタートしたと感じています。ぼくもまだまだ負けてはいられません。おバカパワーを炸裂させて、これからもがんばります!【プロフィール】林家木久扇(はやしや・きくおう)/1937(昭和12)年、東京日本橋生まれ。落語家、漫画家、実業家。1956年、都立中野工業高等学校(食品化学科)卒業後、食品会社を経て、漫画家・清水崑の書生となる。1960年、三代目桂三木助に入門。翌年、三木助没後に八代目林家正蔵門下へ移り、林家木久蔵の名を授かる。1969年、日本テレビ「笑点」のレギュラーメンバーに。1973年、林家木久蔵のまま真打ち昇進。1982年、横山やすしらと「全国ラーメン党」を結成。「おバカキャラ」で老若男女に愛され、落語、漫画、イラスト、作詞、ラーメンの販売など、常識の枠を超えて幅広く活躍。『昭和下町人情ばなし』『イライラしたら豆を買いなさい』『木久扇のチャンバラ大好き人生』など著書多数。最新刊は『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)。波瀾万丈なバカ色の人生を振り返りつつ、バカであることの大切さ、バカの強さ、愛されるバカになる方法を伝授する。「生きづらさ」を吹き飛ばしてくれる一冊!
2022.03.20 16:00
NEWSポストセブン
『笑点』新メンバーに抜擢された桂宮治(公式サイトより)
『笑点』新メンバー・桂宮治が「最適な人材」と評される理由
 1月1日、新春特番『お正月だよ!笑点大喜利まつり』(日本テレビ系)で林家三平(51)に代わる『笑点』メンバーとして、桂宮治(45)が選ばれた。宮治は化粧品会社で年収1000万円を稼ぐトップセールスマンだったが、結婚直後の31歳の2008年に落語家へ転身。それから4年目の2012年に二ツ目に、そして昨年真打に昇進。BS日テレ『笑点 特大号』の若手大喜利にも出演してきた。はたしてこの抜擢にどのような意味があるのか。かつて「三遊亭好楽のドヤ顔」「三遊亭小遊三の下ネタ」などを分析してきた笑点研究家でライターの岡野誠氏が、桂宮治加入で『笑点』がどのように変化するのか、考察する。(文中敬称略) * * * 春風亭昇太や林家たい平など現在の『笑点』メンバーが司会を務める若手大喜利からの抜擢は順当だろう。回答者に必要なのは知名度ではなく、実力や他の出演者とのコンビネーションであり、桂宮治はスムーズに番組に馴染んでいくはずだ。何の縁もない人間が突然入るよりも良い人選であり、今後の『笑点』を考えた場合にBSからの昇格は若手大喜利メンバーへの刺激にもなる。 そして何より、桂宮治は今の『笑点』に欠けているピースを埋める最適な人材だと考えられる。最近の『笑点』は世帯視聴率2ケタをキープしているものの、数年前と比べれば数字は下がっている。その傾向はテレビ全体に見られるが、何かしらの手を打つべき時期に差し掛かっていた。 視聴率低下の原因は、桂歌丸の存在やイメージが大き過ぎた面もあるだろう。50周年を迎えた2016年5月、番組開始当初から番組を支えてきた歌丸が勇退。春風亭昇太に司会を譲り、その昇太に代わって林家三平が回答者となった。三平はメンバーとして重責を担ってきたが、昨年12月26日限りで番組を離れた。 この5年7か月を振り返ると、『笑点』は歌丸の抜けた穴を完全に埋め切れていない印象だ。まず、歌丸が去ったことで、イジれる人物が1人減った。司会者になってからも、歌丸は“毛量少ない”“恐妻家”などで回答者からネタにされ、“困った時の歌丸頼み”という流れがあった。三平にその役割はあまりに重かったとはいえ、周りもどう扱えば正解なのかを最後まで見出せないまま終わった印象がある。 また、メンバーの中で最年長だった5代目三遊亭円楽や歌丸は司会者として “好き勝手に振る舞う”という芸を見せ、座布団を気分で全部取るなどして番組を盛り上げた。現在、司会を務める昇太は年上である4人の回答者に気を遣っているようにも見え、年下である三平をどう転がせばいいかという迷いもあったのではないか。そのため、好きに突っ込めるのは5歳年下の林家たい平だけになっていた。 桂宮治はこの2つの課題解消へ向け、最適な人材だと言える。例えば、『笑点』と同じく春風亭昇太が司会を務めた6月30日放送『笑点 特大号』の若手大喜利では「泳ぎながら一言」というお題で、こうボケた。宮治:子供の頃から泳ぎはすごい得意なんです。昇太:どうしたの?宮治:ほら、頭頂部お皿みたいでしょ? 前世カッパなんです。 歌丸が抜けた後、『笑点』には自分の毛量をネタにする人物がいなかった。宮治は外見でもメンバーからイジられやすく、初めて見た視聴者にもわかりやすい特徴を持っている。この直後、春風亭昇也が手を上げて、こう答えた。昇也:私ね、真打ちに昇進した桂宮治なんですけどねえ、溺れそうなんです。昇太:どうしたの?昇也:皆さんからもらったご祝儀の海で溺れそうなんです。 これに対し、宮治が「そのイジリやめろ!」と突っ込むと、さらに鈴々舎馬るこが客席を指して「あそこにいるの、税務署の人じゃないですか?」とイジった。宮治を中心に笑いの連鎖が生まれていったのだ。このように年下でイジりやすい宮治の加入で、司会の昇太もやりやすくなるのではないか。往時の『笑点』は林家木久蔵(現・木久扇)が自虐ネタを披露すると、すかさず歌丸が手を挙げてイジり、そこに司会の5代目円楽が「バカだね~」と笑いながら、さらに被せるという黄金パターンがあった。 折り紙付きの落語の実力に加え、キャラクターも出来上がっている桂宮治。『笑点』に新風を吹き起こしてくれそうだ。■文/岡野誠:ライター。笑点研究家、松木安太郎研究家。NEWSポストセブン掲載の〈検証 松木安太郎氏「いいボールだ!」は本当にいいボールか?〉(2019年2月)が第26回『編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞』デジタル賞を受賞。著書『田原俊彦論 芸能界アイドル戦記1979-2018』(青弓社)では本人へのインタビュー、野村宏伸など関係者への取材などを通じて、人気絶頂から事務所独立、苦境、現在の復活まで熱のこもった筆致で描き出した。
2022.01.02 16:00
NEWSポストセブン
春風亭昇太の魅力が光る独演会(イラスト/三遊亭兼好)
“滑稽噺の天才”春風亭昇太 独演会では前座から規制退場の誘導も
 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、春風亭昇太の独演会「オレスタイル」についてお届けする。 * * * 春風亭昇太が自分で企画する独演会「オレスタイル」。去年は3月23・24日に本多劇場で開かれる予定だったが、コロナ禍によるイベント自粛要請で中止。今年は1月29~31日に客席数を定員の半分以下に抑えて本多劇場で開催された。 いつもは普段着の昇太によるオープニングトークで始まりゲストの高座を挟んで昇太の落語となるが、今回は楽屋の“密”を避けて前座もゲストもお囃子もなし。休憩時間を告げる影アナも終演後の規制退場の誘導もすべて昇太が務めた。 まずは前座代わりに『子ほめ』。これが実に面白い。基本の型なのに昇太が生き生きと演じることで新鮮に聴ける。落語は結局“演者自身の魅力”が肝だと証明する高座だ。 改めて真打として登場した昇太が演じたのは、過去に数回しか高座に掛けたことがないという年末年始限定ネタの『御慶』。年を越せない貧乏所帯の亭主が夢のお告げを信じて富くじを買い、千両当ててめでたい正月を迎えて大騒ぎ……という噺で、くじを買うまでのドタバタも楽しく、千両当てて浮かれまくる亭主の可笑しさは圧巻。“千両当たる”というドラマをひたすらバカバカしい滑稽噺として表現する「これぞ昇太!」という一席だ。 三席目はネタおろしの『胴斬り』。辻斬りに遭って上半身と下半身とに分かれたまま生きる男の噺だが、昇太は「下半身(足)が犬みたいな振る舞いをして可愛い」という独創的な演出を持ち込み、聴き応え満点の爆笑編にした。この着想は、まさに天才! “懐いてくる足”を抱き上げて可愛がる仕草の楽しさは昇太ならでは。落語でしか表現できない途方もないシチュエーションを見事に利用した昇太版『胴斬り』は今回一番の収穫と言っていいだろう。 恒例の“高座での生着替え”を経て、最後は『御神酒徳利』。もともと持っているネタで、しばらく演っていなかったけれども、今またマイブームを迎えているのだという。 自分で隠した御神酒徳利を算盤占いと称して見つけたことで窮地に陥る『御神酒徳利』には二種類あり、六代目圓生や三代目三木助が演っていたのは、旅籠の番頭が大阪の鴻池の娘の病気を治してハッピーエンドに至る噺だが、昇太の『御神酒徳利』は八百屋が出入りの大店の女中を困らせるために徳利を隠す、別名“占い八百屋”。五代目小さんが演っていた型で、昇太は八百屋の“お調子者”キャラをハジケた演技で明るく描き、大いに笑わせた。 2019年10月以来の「オレスタイル」。“滑稽噺の天才”昇太の真骨頂を存分に味わう至福の2時間だった。【プロフィール】広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。『21世紀落語史』(光文社新書)『落語は生きている』(ちくま文庫)など著書多数。※週刊ポスト2021年3月19・26日号
2021.03.15 07:00
週刊ポスト
高田文夫氏の願い「コロナよ、東京に笑いを届けさせてくれ」
高田文夫氏の願い「コロナよ、東京に笑いを届けさせてくれ」
 放送作家、タレント、演芸評論家で立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、新型コロナウイルスの影響で次々と公演が中止になっている東京喜劇についてお送りする。 * * * 喪失感が凄い。今朝、ラジオの生放送にむかう直前に志村けん死去の報。無念。コロナが憎い。今から50年前、ドリフのボーヤと作家見習いの小僧としてTBSの稽古場で会った。お互いが“なにもの”でもなかった時代だ……。志村けんのことは次の機会に書く……。東京の喜劇“志村魂”(公演のタイトル)を継承する男たちは、幕が開くのか開かないのかハラハラヒヤヒヤしながら毎日稽古にあけ暮れている。 まずは“「いだてん」疲れ”もやっととれて、宮藤官九郎が5年ぶりに作・演出する『もうがまんできない』、4月2日から5月3日。下北沢本多劇場。大人計画の中にある演劇ユニット「ウーマンリブ」の公演。おもしろくてヨダレが出そうなメンバー。阿部サダヲ、荒川良々、松尾スズキ。そこへ柄本佑、要潤である。見たい。やって欲しい。 こちらも東京コメディでとんでもない冴えをいつもみせる宅間孝行の作・演出・主演で「タクフェス春のコメディ祭!『仏の顔も笑うまで』」。モト冬樹、ダチョウ倶楽部の肥後克広ら。4月22日から4月29日、渋谷の大和田さくらホール。兵庫公演もある。みな連日稽古してるんだ、コロナよ、やらせてくれ。 おなじみ三宅裕司ひきいる熱海五郎一座。6月2日から30日、新橋演舞場。『Jazzyなさくらは裏切りのハーモニー』。17年もやってるのですっかり呼吸も合った座員は小倉久寛、渡辺正行、ラサール石井、春風亭昇太、東貴博。今回のゲストは宝塚だった紅ゆずる、AKB48横山由依。みな“笑い”を作っている。コロナよ、やらせてやってくれ。閉塞感でいっぱいのこの日本、東京に笑いを届けようというのだ。どこが悪いのだ。 そして東京喜劇界の生きるレジェンド、ひとり東京コメディ史とも言えるあの人にすべてきいておこうという『伊東四朗トークライブ あたシ・シストリー』。3月の会が中止になってしまったので5月はどうしてもやってもらいたいところ。5月10日、昼の部のゲストが小松政夫、そして私。夜の部が鶴瓶というラインナップ。新宿紀伊國屋サザンシアター。どーか、しとつ!! 笑いごとじゃなく、みな“笑い”に賭けている。 そして来年の事を言うと鬼もあきれるかもしれないが、1月終わりから2月の中旬、あの明治座で私の企画によって宅間孝行と笑いの強力タッグが実現。一部が東京喜劇のお芝居で、二部が私プロデュースによる東京芸人総出演の「ビバリー昼ズ寄席」。乞御期待。■イラスト/佐野文二郎※週刊ポスト2020年4月17日号
2020.04.07 16:00
週刊ポスト
談志も唸った“取材する話芸家”山田雅人の思い出
談志も唸った“取材する話芸家”山田雅人の思い出
 放送作家、タレント、演芸評論家で立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、一人語りを芸に昇華、2009年から「かたりの世界」と題して舞台公演を続ける芸人で俳優の山田雅人との出会いとその芸についてお送りする。 * * * 昔、そう30年位前の話か。山田雅人と森脇健児は大阪ではアイドルのようなスターだった。レギュラー番組も沢山持ち、球場でコンサートをやれば女の子がつめかけた。吉本が今のような隆盛を誇る前の松竹芸能の“森脇・山田”である。 この流れが今の“ますだおかだ”につながっていると勝手に思う。俳優でもそこそこ売れたが、一念発起して東京へ出てきて勝手に私の門を叩いてきた。25年位前か、私も血気盛んで、談志師匠からも「東京の演芸を仕切ってくれ」などと言われていたので「関東高田組」を結成し、まったく無名時代の春風亭昇太、立川談春、志らく、浅草キッド、松村邦洋、江頭2:50、出川哲朗らの中へ山田も放り込み、ライブなどで競わせた。「落語」でも「漫談」でも「ひとり芝居」でもないあの流ちょうな喋りを生かせるものはないものかと考え、マイク一本スポットライトのみの「かたり」という「芸」をふたりであみ出した。野球が大好きだった私は、昭和33年の巨人対西鉄の日本シリーズ3連敗からの4連勝、長嶋対稲尾の対決をキッチリ取材して語ってくれないかとお願いした。 目をとじて聞けば10歳の時の興奮がよみがえってくる。これだ。根っからのスポーツと芸能好きな山田は一話作るのに徹底的に話をきいて回り“取材する話芸家”となっていった。ファンもジワリジワリと増えていった。その取材力、記憶力、よどみない喋りを初めてきいた談志は「いいです。その喋り、競馬の実況をうちのセガレにも弟子にも教えてやってくれ」と言った。「長嶋天覧試合本塁打」、「江川対掛布物語」、広島の「津田恒美物語」も十七回忌の時に作って口演した。得意とする芸能畑も「藤山寛美物語」、「永六輔物語」などが印象深い。 さぁそこで私はまたひとつ課題を出してみた。爆笑問題の太田光という創造者も魅力的なのだが、その父のエピソードがなんとも愉快でユニークなのだ。 頭でっかちの下らねぇ評論家と違って物を産み出す職人であり芸術家なのだ(私も太田も芸術学部)。そうこうしている内に数か月前NHKの『ファミリーヒストリー』で太田の父と母が取りあげられ、そのDNAの素晴しさに感動。あの両親から産まれた東京漫才の雄なのだ。 いま山田はウラ取材を重ね「太田光物語」を一気に語りおろす。5月1日(金)。爆問の事務所は阿佐ヶ谷なので、太田のホーム「座・高円寺2」で開催。太田も私も松村邦洋も出演。3月27日(金)前売開始。■イラスト/佐野文二郎※週刊ポスト2020年3月20日号
2020.03.13 07:00
週刊ポスト
春風亭昇太 城好きならではの着眼生かした「井戸の茶碗」
春風亭昇太 城好きならではの着眼生かした「井戸の茶碗」
 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、城マニアとしても知られる春風亭昇太ならではの着眼点を生かし『井戸の茶碗』で爆笑を呼んだ一席についてお届けする。 * * * 59歳にして遂に結婚、今や落語芸術協会の会長でもある春風亭昇太。だがモットーの「収まってたまるか、一生ジタバタしてやる」そのままに、相変わらず若々しくパワフルだ。10月5日に本多劇場で観た独演会「オレスタイル」でも、そんな昇太の高座を堪能できた。 1席目は部長に初めて食事に誘われた夫に「リストラする罠よ」と言って妻が与えた数々の助言が完全に裏目に出る『リストラの宴』。妻の立てた作戦を実行すべく必死な夫の姿がバカバカしくも愛おしい。 2席目は『お見立て』。冒頭、杢兵衛大尽に会いたくないと仮病を使おうとする喜瀬川花魁に喜助が「見舞いに来ますよ。どうなると思います? 逃げられないあなたの顔の近くに杢兵衛大尽の顔が……」と言うと「イヤッ! そんなことになったら死んじゃう!」と身震いした喜瀬川はハッとした顔で「そうだ、死んじゃったことにしよう!」と思いつく。この展開が昇太らしくて楽しい。杢兵衛の言う「ひぃふ」が「夫婦」だと思わず夫婦約束してしまったという喜瀬川の告白にも笑った。 そして素晴らしかったのが3席目の『井戸の茶碗』。随所に独自の演出を盛り込みながら屑屋のキャラを生き生きと描く、ダイナミックな演出に引き込まれる逸品だ。 仏像から出た五十両から高木が二十両、屑屋が十両受け取った後、大家が同道せず屑屋が一人で千代田宅に二十両を届けに行き、屑屋が千代田に「その汚い茶碗でも売ったらどうですか」と提案するのは昇太独自の演出。ここで屑屋の言う「それで猫に餌でもやってるんでしょ」という台詞は『猫の皿』を連想させて落語通をニヤリとさせる。 この茶碗を細川公が見たいと言うところで昇太は屑屋が集う茶屋が「清正公様のお社の前」だったことに触れ、加藤清正も細川公も「熊本城主」、それがこの噺の「裏のキーワード」だと言う。城好きの昇太ならではの着眼点だ。そして「戦国大名は清正のような出自不明の一群と細川氏のような名門に二分される」と説明、「だから細川公は目が利いた」と井戸の茶碗を三百両で買う場面に繋げた。スマートな展開だ。 千代田に金を届けた屑屋が「前例に倣って百五十両ずつ……俺の存在が忘れられてる!」と気付くのには爆笑した。これを指摘したのは昇太が初めてだ。固辞する千代田に屑屋が「そもそも周りに高いものがいっぱいあるのによく調べないからこんなことになるんですよ!」と一喝するのも痛快な台詞。随所で爆笑を呼ぶ素敵な『井戸の茶碗』だった。●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。※週刊ポスト2019年11月29日号
2019.11.24 16:00
週刊ポスト
志らく、爆問、クドカン「関東高田組江古田支部」の活躍
志らく、爆問、クドカン「関東高田組江古田支部」の活躍
 放送作家、タレント、演芸評論家で立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、立川志らく、爆笑問題、宮藤官九郎ら「関東高田組 江古田支部」の由来と現在についてお送りする。 * * * 今回ばかりは、長いつきあいの読者の皆様に、甘えさせて頂いて……それと言うのもこの連載で描いている佐野(文二郎)クンとこの頁を担当する賢そうな女性編集者のTさんとでコツコツ作業して参りました本が、いよいよ10月30日に発売されるのです。 頁を私物化しますことお許し頂いて。この連載の3年分の中から厳選した面白コラムに、人一倍“サービス精神”が旺盛な私が珍しくも長文で「立川志らく」「爆笑問題」「宮藤官九郎」を、この本の為に一気に書きおろしたのです。実はこの3人(組)は、バカな素人の頃、私に憧れ刺激を受け堂々と表口から日大芸術学部に入ってきた連中です。素人時代の彼らを、私のこの筆が活写しております。今や日本の文化をリードしつづける男たちです。 私が若き日、1990年代(40歳過ぎ)。いつも私の所へ集まってくる無名の芸人達がいました。これを誰が言ったか「関東高田組」。大阪から吉本勢が東上してきた頃で、威勢のよかった若き私は「返り討ちだ」とこの名をつけたのかもしれません。兄弟組織に「たけし軍団」。20代だった彼らは今の春風亭昇太(落語芸術協会会長にまでなった)、立川談春・志らくの“立川ボーイズ”、浅草キッド、松村邦洋、江頭2:50ら血気盛んな連中でした。 あれから30年、今回は「新・関東高田組 江古田支部篇」として書きおろしました。可愛い子分供のことをマスコミがやれ視聴率がどうのこうのと、番組1本作ったこともない奴らが言ってますが何をぬかしやがるです。視聴率なぞなくたって、彼らにはその何百倍の才能があるのです。「テレビ番組にとって大切なのは視聴率ではなくて、数字なのです!」(ズルッ)。 20日の『いだてん』などとうとうラグビーにふっとばされて番組すら無くなっちゃいました。こうやってズレて行くと、最終回は来年の2月頃なのかネ? クドカンドラマは皆キチンと録画して見るからな。えっ? 志らくの『グッとラック!』も視聴率悪いって? だったら『バッとラック!』ってタイトルに変えりゃいいだけじゃねーか。君らには長い目で見るという小松政夫チックな目はないのか。 談志からかつて“東京の笑いの規準を高田とする”と言われた私だが、これを爆笑問題の太田に今こそ託したい。新聞社系の小冊子に“テレビ論”をしっかり書いていたが、読んでやっぱり日芸の人間だなと感心しました。江古田で学んだ連中がキチンと“文化と笑い”を受け継ぎ発信しているのが頼もしい。 で──タイトルは『面白い人のことばっかり! ザ・笑売じょうずたち』(小学館)。発売!※週刊ポスト2019年11月8・15日号
2019.11.04 16:00
週刊ポスト
イラスト/佐野文二郎
林家彦いち 落語という形式をテーマに唯一無二の独創性発揮
 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、落語家生活30周年記念の落語会を開いた林家彦いちの、唯一無二の独創性についてお届けする。 * * * 8月26・27日の2日間、林家彦いちが落語家生活30周年記念の落語会を銀座の博品館劇場で開いた。題して「噺家になって30回目の夏なので、銀座で、祝ってもらいます。」。僕は初日に出掛けた。ゲストは春風亭昇太、三遊亭白鳥、そして「熱血スタンダップコメディ」の清水宏。清水と彦いちは20代から一緒にネタを創り、見せ合ってきた仲だ。 一番手の清水は客席後方から登場、観客全員にスタンディングオベーションを要求した後は、海外での入国審査で体験した爆笑エピソードをハイテンションで語り倒した。 続いて白鳥が演じたのは『最後のフライト』。悪い大人になった小学校時代の教え子を先生が叱りに来る噺で、通常はA首相が主人公だが、今日は一日限定の「落語協会会長・林家彦いち」ヴァージョンだ。 彦いちの1席目は、お盆に里帰りした姉と実家の妹が亡き父を偲んで互いに「……という話はどう?」とまことしやかな作り話を披露し合う場面で始まる新作落語『という』。 そんな娘たちを「父さんは薬局に行ってるだけじゃないの!」と一喝した母が携帯に掛かってきた電話に出ると、父が交通事故に遭い女性が付き添っているとの連絡……「という話はどう?」とこれまた作り話。父が現われ「お前たちが俺を肴に話してるのは嬉しいよ」と満足そう。 場面は変わり赤羽から徒歩20分のアパートの一室。独居老人が壁に貼った生ビールの宣伝ポスターに「最高の家族だろ?」とブツブツ話しかけている。やがて寝込んだ老人を見つめていたポスターの中のビキニ姿の美女が動き出す……「という落語はどうでしょう」でサゲ。 昇太が演じたのは怪談が苦手な男が怪談を教わって友人を脅かそうとする『マサコ』。夏の鉄板ネタだ。何度聴いても新鮮に笑えるのは昇太の抜群の話術があればこそ。 昇太・白鳥・清水の「彦いちを語る」鼎談を挟み、彦いちのトリネタは『私と僕』。ある店で常連客の老人に新作のアイディアを聞いてもらっていた現在50歳の彦いちが、あるきっかけで20年前にタイムスリップしてしまい、30歳の自分に出会う。そこからは50歳の彦いちと30歳の彦いちの会話で物語が進んでいく……と、いきなり「という落語なんです」と冒頭のシチュエーションへ。だが50歳の彦いちは、その老人が20年後の自分だと知る……。 彦いちが披露した2席はどちらも「落語という形式」がテーマの「メタ落語」。彦いちという演者の持つ唯一無二の独創性を改めて認識させてくれる、見事な2席だった。●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。※週刊ポスト2019年10月11日号
2019.10.03 16:00
週刊ポスト
草食系キャラで『明烏』の面白さを浮き彫りにした柳家わさび
草食系キャラで『明烏』の面白さを浮き彫りにした柳家わさび
 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、草食系キャラで面白さを浮き彫りにした、柳家わさびの『明烏』についてお届けする。 * * * 商家の旦那が堅物の息子に遊びを覚えさせようと、遊び好きの二人組に吉原へ連れて行ってもらう『明烏』。八代目桂文楽の十八番で、今でも高座に掛かることは多い。 文楽の時代にはまだ吉原の「粋な遊び」のイメージがあり、「女郎なんて汚らわしい!」と泣き喚いていた若旦那が一夜明けたら花魁の色香の虜、という面白さに観客が共感できた。古今亭志ん朝は、もはや存在しない「吉原の粋」を芸の力で観客に「共同幻想」として提示したが、それは志ん朝だからできたこと。現代ではこうした「吉原礼賛」を観客と共有するのは不可能だ。第一、演者が「吉原の粋」を知らない。 現代において『明烏』を面白く演じるには、「駄々っ子の坊ちゃんに手を焼く二人組」という構図の中で、時次郎という若旦那を思いっきり「ヘンなヤツ」として描く、という手法がある。時次郎が泣き喚く可笑しさがメインのドタバタ劇とする演り方だ。これは、センスのいい噺家がやれば最高に面白くなるが、ヘタな噺家がそれをやると、噺そのものが壊れてしまう恐れがある。 そんな『明烏』を、奇を衒わず正攻法で演じて大いに感心させてくれた若手がいる。この9月から新真打の柳家わさびだ。 かつて立川談志は「現代において『明烏』は、経験のない男性の女性に対する性的な恐怖心をテーマとして演じれば共感を得られる」と語ったが、7月20日の「関内寄席ねくすと」のトリでわさびが高座に掛けた『明烏』を聴いて、「談志が言ったのはこれだ!」と僕は思った。 わさびの演じる時次郎は純真で、実に可愛い。ただ性的な経験がないため「女性と接するのが怖い」のである。「堅物」と言うよりむしろ「草食系男子」だ。だからこそ肉食系な源兵衛と太助に「性交渉の場」に連れて来られてパニックに陥る。わさび自身の草食系なキャラが、そんな時次郎にピッタリ重なって実にリアルだ。「追い詰められた人間の可笑しさを描くのが落語だ」と言ったのは春風亭昇太だが、わさびの『明烏』はまさにそれだろう。 わさびは持ち前の個性を見事に活かし、登場人物をリアルに描いて『明烏』という噺が持つ本質的な面白さを浮き彫りにした。そこに目新しいギャグは一切必要ない。真正面から取り組んで、素直に「『明烏』ってこんなに面白い噺だったのか!」と思わせてくれた。まさに目からウロコ。これはもう「わさび十八番」と言っていいのではないか。新真打わさびの大いなる飛躍を確信させる、素敵な『明烏』だった。●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。※週刊ポスト2019年9月13日号
2019.09.06 07:00
週刊ポスト
春風亭昇太を直撃 玉の輿結婚で「十八番ネタ」が封印危機?
春風亭昇太を直撃 玉の輿結婚で「十八番ネタ」が封印危機?
「ついについに結婚することになりました! 還暦前になんとかなりました!」。『笑点』(日本テレビ系)の司会者・春風亭昇太(59)が、6月30日の放送で結婚を電撃発表。落語界に衝撃が走った。 さらに驚くのが、その後の報道で発覚したお相手。元タカラジェンヌで、現在はドッグサロンの経営に携わる令嬢(40)である。「彼女の母親はドッグトレーナーなどを育成する専門学校の理事長で、愛犬家業界では重鎮的存在。学校の資産だけで約50億円にも上ります」(ペット業界関係者) なんとも羨ましい“逆玉の輿”。所属する落語芸術協会の会長にも就任するなど、公私ともに“昇り調子”の昇太だが、そんな彼の今後を危ぶむ声がある。「お相手が有名な愛犬家一家と聞いて、昇太さん大丈夫かなって。彼は数々の新作落語で知られますが、中でも代表作と言えば『愛犬チャッピー』というネタ。若手時代から演じ続ける十八番ですが、もう二度と見られないんじゃないかと……」(演芸関係者) その噺は、飼い主に対して犬が心の声で毒づく設定で、「チャッピー」と呼ばれると「なんだその名前は! 俺は柴犬なんだよ! 日本人なんだからタロウとかシロウとかでいいんだよ!」と突っ込みを入れたりする。 あからさまに愛犬家をいじっており、たしかに新妻やその一家が見たら、怒りそうな気もするが……。 昇太を直撃すると、思わず「いひひ」と笑いだした。「(奥さんは)まだ『愛犬チャッピー』は聞いたことがないと思うし、反応が楽しみです(笑い)。まぁあのネタは、ひとりよがりな飼い方をしている“本当は犬を愛していない人”のことを揶揄しているので、大丈夫だと思いますけどね」 さすがは本当に妻を愛する「愛妻家昇太」である。※週刊ポスト2019年8月16・23日号
2019.08.06 16:00
週刊ポスト
週刊ポスト 2019年8月16日・23日号目次
週刊ポスト 2019年8月16日・23日号目次
週刊ポスト 2019年8月16日・23日号目次あなたの未来は上級高齢者か、下級高齢者か?・言ってはいけない「定年後」の真実 60歳以下の「上級/下級」の分断 ・ニッポンの高齢者「平均値」全データ あなたはそれより上か下か・「下級高齢者」にならないために今から始める「お金の鉄則」6 ・お盆に親子で確認!「家族のトラブル」先回りチェックリスト特集◆「戦後最大のフィクサー」と呼ばれた男 許永中の独占告白91年逮捕・97年失踪 「イトマン事件」28年目の真相◆田原総一朗が突撃レポート!◆東京五輪開催中2020年8月X日に「首都直下型地震」が起きたら◆【大波乱の大会開幕スペシャル】夏の甲子園「令和の新怪物」は誰だ!◆動き出した「11月解散総選挙」“安倍自民単独3分の2議席”の圧勝 これでいいのか!?◆読書家じいちゃんが「孫に読ませたい本」◆元吉本芸人が爆弾告白「ヤクザの闇営業、行ってたで」◆重病を察知する自覚症状「あぶない組み合わせ」40◆ビートたけし『21世紀毒談スペシャル』 令和初の「ヒンシュク大賞」を決定するぜっての!◆令和の世に語り継ぎたい 誇り高き「8人の日本軍人」◆プロ野球80年の「ナンバーワン選手」を決めよう◆文在寅大統領が一切聞く耳持たない 世界で飛び交う「韓国批判」ワイド◆清原和博フルスイング撮◆稀勢の里“荒磯部屋”設立◆池江璃花子「日本新の熱い絆」◆藤浪晋太郎“オフのトレード話”◆八村塁「開幕スタメン」◆小室圭さん「大逆転の記者会見」◆春風亭昇太 玉の輿結婚◆小川彩佳 古巣テレ朝に“メッセージ”◆山口真帆 活動再開◆カルロス・ゴーン「反転攻勢の秋」◆N国党「NHK訴える!?」◆大塚久美子「社長ツアーガイド」◆小池百合子“自民懐柔策”グラビア◆昭和の「お化け番組」伝説の裏側◆総力追跡 あのAV女優は現在◆染谷有香 Honey Trap なにが愛なのか◆大場久美子 ハワイの休日◆キングダム◆週刊ポストが報じたお色気特集の50年◆創刊50周年記念 週刊ポストの「顔」になった女たち◆フジテレビアナウンサー山﨑夕貴 初グラビア◆なをん。神戸の女の物語*美乃◆エスワンALLSTARS連載・コラム◆呉智英「ネットのバカ 現実のバカ」【小説】◆柳広司「太平洋食堂」【コラム】◆短期集中東田和美「60歳からの『儲ける競馬』」◆広瀬和生「落語の目利き」◆堀井六郎「昭和歌謡といつまでも」◆秋本鉄次「パツキン命」◆戌井昭人「なにか落ちてる」◆春日太一「役者は言葉でできている」◆大竹聡「酒でも呑むか」◆鎌田實「ジタバタしない」◆綾小路きみまろ「夫婦のゲキジョー」◆大前研一「『ビジネス新大陸』の歩き方」◆高田文夫「笑刊ポスト」【ノンフィクション】◆井沢元彦「逆説の日本史」【コミック】◆やく・みつる「マナ板紳士録」◆とみさわ千夏「ラッキーな瞬間」◆中島守男「袋小路家のニチジョー」【情報・娯楽】◆のむみち「週刊名画座かんぺ」◆恋愛カウンセラー・マキの貞操ファイル◆ポスト・ブック・レビュー◆医心伝身◆ポストパズル◆プレゼント◆法律相談◆新連載 二題噺リレーエッセイ 作家たちのAtoZ◆椎名誠とわしらは怪しい雑魚釣り隊◆坪内祐三の美術批評「眼は行動する」
2019.08.05 07:00
週刊ポスト
四代目三遊亭圓歌 鹿児島訛りを武器に変えた襲名披露
四代目三遊亭圓歌 鹿児島訛りを武器に変えた襲名披露
 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、四代目三遊亭圓歌が襲名披露でみせた先代とは異なる魅力についてお届けする。 * * * 襲名には色々と面倒が付きものだが、先代が後継指名をしていると話が早い。『中沢家の人々』でお馴染みの三代目三遊亭圓歌は生前「圓歌の名は歌之介に継がせたい」と公言し、亡くなる前年(2016年)の落語協会の納会で柳亭市馬会長に改めて「四代目圓歌は弟子の歌之介に継がせたいので頼む」と言ったという。 その遺志を受けて落語協会は昨年、三代目の一周忌のタイミングで歌之介の四代目圓歌襲名を正式決定。今年3月、晴れて襲名の運びとなった。この時期の襲名には「新元号に合わせて新しい圓歌を誕生させる」という意味もあったようだ。 襲名披露興行はまず上野鈴本演芸場(3月下)、新宿末廣亭(4月上)、浅草演芸ホール(4月中)、池袋演芸場(4月下)、国立演芸場(5月中)と都内の寄席定席5軒を廻った後、全国25か所で行なわれる。6月22日に東京・有楽町のよみうりホールで開かれた「三遊亭歌之介改メ四代目三遊亭圓歌襲名披露興行」も、その全国ツアーの一環だ。 この日の出演者は三遊亭小遊三、林家たい平、桃月庵白酒ら。落語芸術協会は6月27日より春風亭昇太が会長を務める新体制に切り替わったが、この時点では小遊三は芸協副会長兼会長代行。たい平は落語協会理事、白酒は出身が四代目と同じ鹿児島、それも隣町という縁がある。 圓歌の弟子で二ツ目の天歌が新作『甲子園の土』で開口一番を務めた後、白酒『つる』、たい平『禁酒番屋』、小遊三『引っ越しの夢』と続き、休憩を挟んで襲名披露口上へ。司会は一門の弟弟子である三遊亭歌武蔵が務め、居並ぶ白酒、たい平、小遊三が次々と口上を述べて、小遊三の音頭で三本締めとなった。 歌武蔵の『支度部屋外伝』(相撲漫談)の後、トリの高座に上がった四代目は、師匠三代目圓歌の爆笑エピソードから『母ちゃんのアンカ』へ。両親が離婚して母に育てられた幼少期の思い出を中心に、笑いを交えながらホロリとさせるこの自伝的作品、『母のアンカ』と表記されることもあるが、演者自身が最後に「母ちゃんのアンカの一席で……」と締めるのが通例だし、内容的にも「母ちゃん」のほうが相応しい。 ちなみに寄席の披露目で圓歌はこの『母ちゃんのアンカ』の他に『お父さんのハンディ』『爆笑龍馬伝』なども演じたが、いずれも本編から脱線した漫談がメインの高座。そしてそれが寄席の空気によく似合う。まさに「寄席の爆笑派」だ。鹿児島訛りを武器に変えた四代目の熱くパワフルな高座は、先代とは異なる「新たな圓歌」の魅力に満ちている。●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。※週刊ポスト2019年8月9日号
2019.08.04 16:00
週刊ポスト
高田文夫が見た「三遊亭小遊三と春風亭昇太」
高田文夫が見た「三遊亭小遊三と春風亭昇太」
 放送作家、タレント、演芸評論家で立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、落語芸術協会の会長代行だった三遊亭小遊三と、新会長となった春風亭昇太についてお届けする。 * * * マスコミは“闇営業”一色。雨上がり決死隊が“闇あがり決死隊”になった。 大阪の暗黒ニュースばかりで、東京では明るいニュースのはずが記事もこぢんまり。東京の落語界にはふたつの反社ではない団体がある。落語協会と落語芸術協会。いってみればセとパのようなものだ。そこから枝分かれして(喧嘩別れ)圓楽党と立川流の弱小軍団。落語芸術協会の会長を務めた桂歌丸師が亡くなって一年、副会長の三遊亭小遊三が代行を務めていたが、そろそろ会長を決めなくてはいけない時期になって「オレ、や~らない。楽になりたい」と言い出す72歳。 私の古くからの友人だが、この男ぐらい面倒くさいことが嫌いな男はいない。笑芸界では“最も軽い重鎮”と尊敬される。小遊三曰く「ハードルは上げるだけ上げて高くした方が、下をくぐり抜けやすい」そんなことを真顔で言う。最近落ち込んだことはときけば「湯あがりに鏡を見るとおっぱいに張りがなくなった」だとさ。誰か処刑してくれ。色紙を頼まれると「寝てて転んだためしなし」。アハハまったくだ。ずっとゴロゴロしていたいのだ。 そのくせ若き日は卓球青年で、前の東京五輪では、山梨を聖火ランナーとして走った。今でも林家こん平監督の「らくご卓球クラブ」では頭がでかいのでヘッドコーチ。 先日理事会が開かれ、噂通り春風亭昇太・59歳が新会長に就任。昇太の推しにより、副会長には頼りになる春風亭柳橋が決定。あの軽い芸風からまだまだ若手なんて思っていたら、すぐに還暦。 30年前若手ナンバーワンとして私のラジオ番組『ラジオビバリー昼ズ』のレポーターを直でやってもらっていたらその間に『笑点』の司会となり、気がつけばあの背丈でも大きく見える会長である。“肩書きが人間を作る”というが本当だな。私もこれからは「師匠!会長!」など卑屈にこびながら、おこづかいのひとつももらいたいものだ(アッ先日、一対一で呑みに行っておごってもらった。これからは現金でください)。 なんといっても会長職というのは世間に対する知名度が大事。これは申し分なし。小遊三の言う通り「発信力がある」ということも大切。記者の質問に昇太「我々は公益法人です。5千円の花束よりも3千円のご祝儀を」。ちなみに小遊三は参事となった。「参事のおやつ」だとさ。 ここまで書いたらテレビで「昇太結婚」。アーッ、以下次号。■イラスト/佐野文二郎※週刊ポスト2019年7月19・26日号
2019.07.10 16:00
週刊ポスト
講談師・神田松之丞 35歳にしては老成した人生観の背景
講談師・神田松之丞 35歳にしては老成した人生観の背景
 講談の枠を大きく超えて活躍し、講談界に新風を巻き起こしてきた神田松之丞が来年2月、真打に昇進することが落語芸術協会の理事会で決定した。 二ツ目でありながら独演会では完売が相次ぎ「今、もっともチケットが取れない講談師」「講談界の風雲児」が枕詞となっている松之丞。所属する落語芸術協会では、7人抜き昇進の落語家・春風亭昇太以来の28年ぶりとなる9人抜きの抜擢昇進、日本講談協会では18年ぶりの男性講談師の真打誕生となる。「ありがたいことです。芸は未熟ですけれども、現在の自分は二ツ目の寸法には合っていないとは感じていました。ようやく認めてもらい、頑張るぞという気持ちを新たにしました」 来年2月から新宿末廣亭中席夜の部を皮切りに、都内の寄席、演芸場で40日以上の真打披露興行が行なわれる。それに加えて、以前から披露興行をやりたいと公言してきたのが歌舞伎座だ。古典芸能のシンボルである歌舞伎座に、講談師が登場した例はまだない。「講談と歌舞伎は歴史的に関係が深く、歌舞伎役者だった師匠・神田松鯉(しょうり)への恩返しにもなりますし、講談界にとっても大きな花火になると思います」 もうひとつの関心事は名跡の襲名だ。「名前については、師匠からの連絡待ちですが、継ぐなら『幻の大名跡』でありたいと思っています。芸の内容はともかく、講談界のスポークスマンとしてこれだけ頑張った奴はいないという自負はありますし」 だが、青天井を思わせる今の人気については意外なことに「人気は水物、一時のもの」と冷静に答える。「人気についてはもう冷め冷めですね。人気があるからといって芸が上達することはないですし。コツコツとネタを覚え、ちゃんとネタ下ろしをしているかどうか。それだけが講談師としての自分に対するぶれない評価基準です」 メディア出演などで稽古の時間が取れないことがストレスであり、新しいネタを覚えることが喜びだという。「良いことのあとには悪いことがあり、悪いことのあとに良いことがある。そして最後にはみんな死ぬ(笑い)。今の人気もそのうちにぶり返しがきますよ」 35歳にしては老成したこの人生観には小学生のときの父親の他界が少なからず影響している。「昨日まで明るく笑っていた小学生が急に『死』というものを考えさせられ、有無を言わさず大人にさせられる。そりゃ冷めちゃいますよ。でも、この経験がなければ絶対に芸人になっていなかったし、この経験が熟成して芸人としての陰影を育んだのだと思います」 そして最後にひと言こう語った。「自分は本当に講談しか興味がない男なんです」 令和2年2月、真打昇進で神田松之丞は新たな物語を読み上げる。●かんだ・まつのじょう/1983年生まれ、東京都出身。本名古舘克彦。高校時代に三遊亭圓生で落語に興味を持ち、大学時代に立川談志に衝撃を受ける。その後、講談と出合い大学卒業後の2007年、三代目神田松鯉に入門。2012年に二ツ目昇進、2020年2月に真打昇進(予定)。日本講談協会、落語芸術協会所属。著書に『神田松之丞 講談入門』(河出書房新社)など。4月からは初の冠番組『松之丞カレンの反省だ!!』(テレビ朝日)が放送開始。■取材・文/鈴木洋史、撮影/小倉雄一郎※週刊ポスト2019年4月26日号
2019.04.16 11:00
週刊ポスト
三遊亭白馬がトリを務めた寄席の魅力を語る
月亭遊方の噺が醸し出す「胃もたれしない濃い笑い」
 音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、「カジュアルラクゴ」で人気の月亭遊方のさらりと胃もたれしない笑いについてお届けする。 * * * 江戸落語を聴いて育ち、東京に住んでいる僕のような人間は、ナマの上方落語に接する機会が非常に少ない。それだけに、偶然出会った一席のインパクトは重要だ。 上方の「高座のロックン・ローラー」月亭遊方。日常生活の中の笑いをドタバタ劇に仕立てる「カジュアルラクゴ」と称する新作で人気の演者だが、「新作派ならではの視点」で再構成した古典も面白い。無理に古典をイジるのではなく、その噺の本質的な可笑しさを自身の個性で増幅してみせるという、東京で言うと春風亭昇太に通じるやり方だ。 数年前、僕は岐阜で遊方の『たとえばこんな誕生日』を観た。自分で自分の誕生日のケーキを買って帰る途中で事故に遭った男が、救急隊員に「一人で誕生日を祝う寂しい男」であるとバレてあれこれツッコまれるという、カジュアルラクゴの傑作だ。僕はその高座のあまりの面白さに衝撃を受け「東京に来たときは追いかけよう」と心に決めた……のだが、機会はどうしても限られた。 その遊方が、東京で「ときどき無性に遊方噺」という隔月の独演会を始めた。場所は神保町・らくごカフェ。12回連続ということで、第1回は1月16日に行なわれた。 まずは、日常で遊方が出会った「クスッと笑える小ネタ」を披露する「小ネタパネルトーク」。パネルに掲げられた10の小ネタのうち「ガストの店員」「天王寺警察の婦警」「びっくりぽん」等、客が選んだ6つの小ネタが披露された。日常マクラの連続みたいなものだが、上方の演者らしい趣向で実に楽しい。 これを前座代わりに、1席目は新作『世帯イマジン』。ビストロとは名ばかりの汚い食堂に雇われて生演奏をするピアニストが、次々に襲いかかる店員や客の迷惑行為にボヤき続ける噺で、平和を願うジョン・レノンの「イマジン」の弾き語りをしながら「戦争じゃ!」とキレる、という皮肉な発想が素敵だ。 2席目は古典『住吉駕籠』。東京の『蜘蛛駕籠』の元となった噺で、遊方は米朝の型にアレンジを加えて「ある駕籠屋二人組のついてない一日」をコント風に展開した。殊更にギャグ沢山にするのではなく、この噺の「シチュエーションの可笑しさ」を的確に捉えた好演だ。 遊方はこの会で「関西独特の熱すぎるノリを持ち込むのではなく、腹八分目の『胃もたれしない濃い笑い』で東京にファンを増やしたい」のだという。その狙いは正しい。●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『噺は生きている』など著書多数。※週刊ポスト2019年3月1日号
2019.02.19 16:00
週刊ポスト

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結婚し、日本メディアが情報をキャッチしづらいNYで、デイリーメールが追跡取材(写真/JMPA)
小室圭さん・眞子さん夫婦が「離婚で終わったとしても…」英デイリー・メールが報じた「茨の道」
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高橋真麻
高橋真麻「おでんの卵8個食べても太らない」女性が憧れる美スタイルの理由
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