じゃあ、『月まで三キロ』は転機になった小説なんですね、と聞くと、伊与原さんは「いや」と、ちょっと口ごもった。
「まあ、そうですね。ただ、なんて言えばいいのか、こういう作品を評価していただいたから、ずっとこっちの方向でと思ってるわけでもないんです。人の書き方とか科学の取り扱い方の意識が変わったのは確かですけど、これからずっとハートウオーミングなものだけ書いていこうとは思っていなくて。まだまだミステリーも書きたいですし、近未来ものとかスケールの大きな話がやっぱり好きなので、そういうのも書けるといいなと思っています」
ミステリーでも家族小説でもない、これまで挑戦したことのない分野の小説を書く計画もあるそうで、新作もたのしみだ。
【プロフィール】
伊与原新(いよはら・しん)/1972年大阪生まれ。神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻し博士課程修了。2010年『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞。209年『月まで三キロ』で新田次郎文学賞、静岡書店大賞、未来屋小説大賞を受賞。ほかの著書に『青ノ果テ 花巻農芸高校地学部の夏』『磁極反転の日』『ルカの方舟』など。
取材・構成/佐久間文子 撮影/浅野剛
※女性セブン2021年3月25日号