思えば、母ちゃんと私は、死に関するブラックジョークが大好物で、ご近所の前でも「死ぬ前にへそくりの場所だけは私に教えとけ。高い線香、燃やしてやっから」「あはは。まだだな」と笑ったりして、ひんしゅくを買っていた。だけど、墓所の地名が出たのは初めてだ。

「かわいいおばあちゃんですね」看護師さんが、母ちゃんの搬送ベッドを押しながらそう言っていた、と弟は言う。

「この期に及んで、こんなわずかな時間で、母ちゃん、どんな魔術を使った?」

 母のコミュニケーション力にちょっと驚く一方で、「ああ、また始まったか」という気持ちもある。このバアさま、どこでもここでも、笑うチャンスを狙っている。そう、肝臓や心臓が多臓器不全を起こしているとしか思えないいまだってそう。

 そのおかげか、若い医師は「熱の原因や肝臓の数値が悪い原因を検査をして探りながら、治療とリハビリをして体力を落とさないようにしましょう」と、やたら前向きなことを言う。

 はて、“サガリ”までの手順がますます見えなくなった。

 時は春。あと2週間ほどすれば、母は93回目の誕生日を迎える。病室の窓から、桜の枝が芽吹き始めたのが見える。

※女性セブン2021年3月25日号

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