「お金はあるよ。それなりにさ。自分でも言うのもなんだけど。オレ、他に趣味がないから。仕事は……(両親が経営していた)印刷所を今も細々とやっていますよ」

 夏の選手権大会のチケットが全席指定となった100回大会(2018年)以降、ラガーさんが野宿をすることはなくなった。

「100回大会のときに、8号門のところで野宿していて、寝ている間にチケットを盗まれてしまった。知ってるでしょ? それ以来、甲子園の近くに民泊するようになりました。20年間休まず、春夏の甲子園にやってきて、いろんなことが起きながらも、ブレーキをかけずに全試合を観戦してきた。こうして一度、甲子園を外から見るってのもいいんじゃないかな」

 選抜観戦を“辞退”したのは、新型コロナの感染拡大が最大の理由だった。

「これは人間のモラルの問題だね。人間として、コロナ禍に東京から行って、テレビにでも映ったらモラルを問われるでしょ。(野球観戦の)引退はしないよ。ネットではさ、今年の甲子園にオレがいないことで、“ラガーさんが捕まった”みたいなことも書かれていた。そんなわけないじゃない。誰かと勘違いしてんだろうね。この点はしっかり書いてほしいんだけど、野球観戦は止めたわけじゃない。コロナさえ落ち着けば、今年の夏も足を運びますから。この点はしっかり書いてくださいね。頼みましたよ!」

「甲子園観戦をやめるわけじゃない」と繰り返し強調し、こちらに電話を切るタイミングをいっさい与えないラガーさんだった。

◆取材・文/柳川悠二(ノンフィクションライター)

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