コメディアンの大村崑(89)は、思い入れのある“資産”を手放した。
「僕は若い頃から車が好きで、20代に運転免許証を取得していました。ヨーロッパ旅行でベンツのタクシーのドアを閉める重厚な音に感激して、ベンツを買いました。それも白の左ハンドルで最高級車でした。まだ日本ではベンツがほとんど走っていない時代で、みんな振り返っていましたね。以来、何台ものベンツを乗り換えました。80歳になっても運転には不安はなく、4年ほど前までは散髪に行くのも自分で運転していました」
ところが、仕事が昔のように殺人的なスケジュールではなくなったので、移動にタクシーや電車を使うようになると、心の変化があったと言う。
「地下鉄に乗ると、いろんな出会いがあって楽しいんですよ。みんなが声を掛けてくれるし、電車での若者たちの生態も勉強になる。都会に住んでいることもあって、自動車を使わなくても公共交通が便利で生活に不自由がなかった。だから次の車を買わずに、持っていた車を売ってしまいました。
それで1年ほど車がなくてもいい生活をしてみて、次の誕生日の更新のタイミングで免許を返納することにしたんです。運転には自信がありましたが、高齢者の重大事故が増えていて過信はいけないとも思う。思い切って返納しましたが、今はすがすがしい気分ですね」
※週刊ポスト2021年4月9日号