靴職人として仕事をする際はラフなファッションの優一氏

靴職人として仕事をする際はラフなファッションの優一氏

 と提案してみた。呼び方一つで距離が縮まるなら、やってみよう、と思った。そして、彼は僕のことを“優さん”、僕は彼のことを“西さん”と呼ぶことにした。

このままだと「時間の無駄になる」という焦り

 西さんが、靴作りを完璧にできるようになるには、途方もない年月がかかるのかも知れない。でも、イタリアでの修行生活の頃、光が見えなくても、どうして続けられたかと思い返すと、「ルイージ!」と叱ってくれるアンジェロに、褒められたい一心だった。

 そのことを思い出して、西さんが工房で、少しでも心が穏やかになれば、と思った。

 僕と西さんは、お互いに仕事がある為、工房で会える時間は限られる。しかし、毎日寝る間を惜しんで、“やっと”習得できる靴作りを、1か月に数回やったぐらいで習得できるわけがない。案の定、西さんは前回教えたことをほぼ全て忘れていた。

 靴職人として生きていこうとしているわけではないし「仕方がない」と自分に言い聞かせつつも、こんな風に毎回振り出しに戻っていては時間の無駄だし、企画もつまらなくなる、と一瞬焦った自分を悟った。

 これは、西さんの責任ではない。僕が靴作りの楽しみを伝えきれてないし、求心力も足りない。自分一人の良し悪しを判断しているだけの日々は、どれだけ楽なものなのかと思った。弟子という存在を育てる人間になることは並大抵なことではないと、師匠と父の背中を思い出して、西さんへ再び声をかけた。

 最後に、次回工房で会うまでの間、靴作りを少しでも体で覚えておいて欲しくて、「1日5分でもいいので」という言葉とともに、「宿題」を出した。

僕が週刊誌記者を「弟子」に誘ったワケ

 実をいうと、西さんに、「僕の弟子になってみませんか?」と声をかけたのは、僕の方からだった。もし、僕の周りに助言をする人がいたら、「やめておけ」と言われただろう。それでも、そんな企画を提案したのには、理由があった。

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