「消毒なんか一切しませんし、客もキャストもノーマスクでお酒を飲みながら大騒ぎ。キャスト用の狭い待機室もコロナ前の密のまま。みんな感染を気にして待機室では黙ってすごしていますが、いつ感染するのか、もう運次第かなって思います」(岡本さん)
東京都内のラウンジ店勤務・坂本七海さん(仮名・10代)もまた、最近、かつて勤務していたラウンジ店に呼び戻されたという一人。
「コロナでもなんとか潰れずに店は生き残っていましたが、店長は今こそ稼ぎどきだ、と女の子にものすごい負担を押し付けてきます」(坂本さん)
外には人が溢れているだろう、ということで、復帰当日に坂本さんが命じられたのは、店の外に出ての客の「キャッチ」。店から少し離れたところにある闇営業中の居酒屋周辺に立ち、酒に酔った客に手当たり次第に声をかけるのだという。
「酔ったお客さんが一番狙いやすいのですが、こうした時期に飲んでいる人だから、当然感染対策なんか全く気にしていない人ばかり。キャッチしているお前がいうな、って言われるかもしれませんが、コロナのおかげでコンビニのアルバイトですら簡単には採用してくれません」(坂本さん)
働いて感染して命を危険にさらすか、働かずして飲まず食わずで命を落とすのか。一緒にキャッチに励む同僚たちと悲痛な面持ちで街角に立ち続けているのだ。
二人が感じているのは、感染者数が減少したとはいえまだ予断を許さない状況の中で、社会が無理矢理に「通常」に戻ろうとしていることへの違和感だ。側から見れば、闇営業をしている店も、そこにいく客も、キャバクラ店や性風俗店で働く人も客も、感染を気にしていないかのようにも思える。だが、気にしていないからやってきているはずの客ですら「今の状況はおかしいよね」などと呟きながら、グラスを傾けているという現状だ。
都市部を中心に緊急事態宣言下、ワクチンの接種率もまだ低く、医療ひっ迫が深刻だと伝えられている。日々、発表される新規感染者数が減少傾向にあるとはいえ、危険な状態は抜け出せていないはずだ。この危機に対して、誰もが同じ認識のはずなのだが、なぜか強引に「通常」に戻ろうとしている現実世界。国民の半数以上が反対する五輪が開催以外に道はないとすすめられているように、普段通りに稼ぐのだと突き進んで大丈夫なのだろうか。多くの人が感じているこの違和感が、最悪な結末を呼び込むことにならなければ良いのだが。