「このまえ、パチンコ店の前に行列ができているのを見てね、思わずホッとしてしまいましたよね。またお客が来る、お店ができるって。一年前は、並んでいる人が悪魔に見えたのに、今は天使さんに見える」(原田さん)
結局、社会が不安定な中で「誰かを攻撃して安心したかった」という気持ちがあったはず、と話す原田さん。感染者数が横ばい、もしくは減少傾向になってくると、全国のパチンコ店の前にできる行列は、さらに長くなっていく。
「駐車場は朝から満杯、久々にやってきた警備員のおじさんも喜んでいました」
九州地方のパチンコ店オーナー・吉田雄さん(仮名・60代)の店にも、つい最近になってコロナ禍前のような客足が戻り始めた。一年前、常連客からですら「こんな時期に(店を)開けるな」と怒鳴られた経験もあり、事業継続について、真剣に検討をせざるを得ないほどに経営状況は悪化の一途を辿っていた。だが、ここにきての「完全復活」だ。
吉田さんを怒鳴った客、店から遠のいていた客からも「やはりパチンコはいい」と声をかけられることもあるという。客足は増える一方だが、それに比例するように気がかりなことも増えている。感染対策を全く気にしないという客が、かなり目立ってきたのだ。
「しゃべりながら遊戯する人、灰皿の置いてない場所でタバコを吸う人、酒を持ち込む人など、本来なら我々が注意しなくてはならないお客さんが増えました。でも、あまり注意はしていません。せっかく戻ってきたお客さんには言いづらい」(吉田さん)
生活様式を変えねばならないと言われ続けて二年目になった。残念だが、長期化するコロナ禍に悪い意味で慣れてしまった人が増加、すっかり気が緩んでいる人たちが一定数いるのだ。強いられる新しい生活様式に悪い意味で慣れてしまい、以前ほど、手洗い、うがい、三密を避ける、に注意を払えなくなっている。当然、この気の緩みが再び感染者数を増やし「第5波」の到来を早める可能性は十分にあり、いざ波の中に突入してしまうと、再び「新しい敵」探しが始まることも考えられる。世論は、その時々に雰囲気で変わるものかもしれないが、敵を作り出そうとする人々の心境の変異もまた、ウイルス並みに恐ろしいものかもしれない。