そんな本作で、重要な役割を担っているのが清里明良役の窪田正孝(32才)だ。彼は第1作目から出演しているのだが、今年4月に公開された第4作目『るろうに剣心 最終章/The Final』で、改めてその存在に気付いたという人や、この完結編の公開を記念してテレビ放送された第1作目を再見し、数年越しに気がついた方も多いようだ。
第1作目での窪田の登場シーンは極めて少ない。おそらく出演時間は5分にも満たないため、気付かなかった人がいるのも頷ける。セリフも限られており、あっという間に清里は剣心に斬殺されてしまっているのだ。しかしながら、この一件を剣心が悔いているのは、これまで度々作品内で回想されてきたことから明らかであった。この伏線が第4作目で回収され、本作では物語の“核”となっている。そう、本作で有村架純(28才)が演じるヒロイン・巴は清里の許嫁であり、剣心に復讐するために近づいてきた存在なのだ。悲劇の連鎖である。
窪田が演じたのは重要な役ではあるが、出番が少なかったのは事実だ。第1作目が製作された2011年頃の窪田といえば、出演作が相次ぎ上り調子ではあったものの、“まだまだこれから”という状況でもあっただろう。実際その後に、大河ドラマ『平清盛』(2012年)や朝ドラ『花子とアン』(2014年)などへの出演が続き、10年経った現在では、映画やドラマに舞台と、完全に主役級の俳優の一人となった。コロナ禍に見舞われながらも、無事に完走した朝ドラ『エール』(2020年)での好演も記憶に新しい。
『るろうに剣心』の製作陣が、窪田がここまでの存在になると予見していたかどうかは分からないが、今作では剣心の過去が描かれるとあって、窪田演じる清里の登場シーンがこれまで以上にフォーカスされている。セリフはやはり少ないが、「大事な人がいる。死ぬわけにはいかない」、「死ねない。死ねない」といった清里のセリフは強く印象に残るものだった。
演じる窪田の巴への想いや悲痛な叫びと表情は、巴役の有村の儚げな演技と呼応し合い、本作の悲劇性をより深く強固なものにしている。窪田正孝が俳優として現在の位置にまで上り詰めていなければ、このシーンはどうなっていたのか、想像もできない。やはり優れた俳優とは、出番の多寡にかかわらず、早い時期から素晴らしい功績を残している。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。