路上生活者の女性が亡くなったバス停に供えられた花束。東京都渋谷区(時事通信フォト)

路上生活者の女性が亡くなったバス停に供えられた花束。東京都渋谷区(時事通信フォト)

サラリーマンが、わざわざ蹴りに来る

「からかったり逃げたりすることが楽しかった」

 2020年3月、岐阜市の男子学生たちはゲームを楽しむかのようにホームレスの男性を執拗に襲ったあげく殺害した。このホームレスの男性も空き缶拾いで生計を立てていた。猫を愛し、テントに同居の女性と慎ましく生活していたが、学生たちは「楽しかった」から殺した。犯行グループ、当時の朝日大学硬式野球部2名の投球は大好きだったはずの野球ではなく、罪もないホームレスを殺すための投石となった。

「路上生活者にどいてもらいたかった」

 2020年11月、渋谷区の深夜のバス停で休んでいた64歳の女性を殺した46歳(当時)の男は、自分のバス停でもないのに「どいてもらいたかった」と警察にうそぶいた。その女性は決して怠け者などではない。働き続け、夢を追い、コロナ禍に仕事を失って仕方なく路上にいた。所持金は8円しかなく、誰もいない深夜のバス停なら、ほんの少しなら休んでもいいだろうと佇んでいた。それだけでこの男は、まるでその土地の暴君のように「痛い思いをさせればいなくなる」と彼女を殺害した。甲州街道沿い、渋谷の一等地で実家の酒屋を手伝う男だった。

「普段からホームレスが許せなかった」

 2021年4月、33歳の男は足立区の新西新井公園でホームレスのダンボールに火をつけて殺害しようとした。幸いダンボールの持ち主は留守だったので助かったが、芝生に延焼するほどの火で一歩間違えば大変なことになっていた。ホームレスを許せないから火をつける。理解不能である。

「サラリーマンに蹴られたりは普通だよ。隅っこにいてもわざわざ蹴りに来る」

 深夜の遊歩道に佇む男性、昔に比べればホームレスの減った都心だが、いまも路上で生活する人はいる。ほとんどは高齢者だが彼いわく、コロナ禍でもそうした高齢ホームレスに絡んでくる輩がいるという。

「すいません、なるべく小さくなりますから、許してください」

 声をかけた別のホームレスの方は筆者を役所の関係者とでも思ったのだろうか、丸まった体をさらに丸めて小さな声を絞り出す。彼に至ってはダンボールも毛布もない。最近ではホームレス、とくに大規模なダンボールハウスを作るようなホームレスは減り、こうした道でただ寝るような高齢者が残った。福祉関係者も手を尽くしているが、精神的な疾患や意思疎通に難のあるホームレスの援助は難しい。
 

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