その後3日ほどして、平熱に戻った娘は変わらずに自室で療養を続け、森田さんもいつ感染するか、すでに感染しているのではないかという恐怖と闘いながら仕事を続けた。食事や家の掃除、風呂の準備などといった家事も全て森田さんが担当。この時、夫はすでに家を出て行った後だった。
「会社に子供が感染したと伝えると、すぐに夫は出社停止になりました。そして、子供や私が本当に感染していないとわかるまで、家に帰らないよう上司に釘を刺されたそうなんです。いくらなんでも酷いと思いましたが、夫が感染し、会社でウイルスをばら撒くことになるくらいなら仕方ないかなと」(森田さん)
当然、森田さんは陰性で普段と何も変わらない息子の世話もしなければならない。症状は軽いものの、感染した子供の様子を常にチェックし、不安定な気持ちを落ち着かせようと会話をしたりゲームをしたり、教科書を読み聞かせたりした。感染している娘と感染していない息子を、ワクチン未接種の母親が一人、自身が感染するかもしれない恐怖の中で面倒を見なければならなかったのである。
「近くに住む義理の両親が『息子を預かる』と言ってくれましたが、息子が万一、感染していた場合に取り返しがつきません。大人が感染しても、入院したり自宅療養したりできますが、子供の場合は、親がつきっきりにならざるを得ず、家庭は確実に破綻します。ツイッターを見ると、同じような状況の家庭が多くあり、このままでは学校再開などできるわけがありません」(森田さん)
自宅療養の過酷さについては、多くのメディアが詳報を出しているが、感染者が子供で、しかも母子家庭など「ひとり親」だった場合、状況はより深刻さを増す。神奈川県在住のパート・福永裕子さん(仮名・30代)は、中学生の一人息子に感染が判明し、仕事まで辞めざるを得なくなった。
「子供の塾でクラスターが発生し、息子の陽性もわかりました。症状はほとんど出ませんでしたが、感染したショックから部屋に引きこもり、部活にも行けず、本当にかわいそうな夏休みを過ごさせてしまいました」(森田さん)
息子の落ち込みは、感染だけが理由ではないことも知っていた。塾でクラスターが発生したことは瞬く間に拡散され、ネット掲示板やSNS、子供達のグループラインでは、感染者探しや、感染の「原因」になったのが誰か、犯人探しのようなこともはじまっていたのである。