あとね、私、「オリンピックとパラリンピックを分けないでやってほしいです。それがいちばんの目標です」とも言わせていただいたんです。演出のウォーリー木下さんや、振り付けの森山開次さんが本当に素晴らしいかたたちで、開会式の本番の10分ほど前、キャスト全員の名前を言いながら、「みんなが、自分が輝いたら、みんな、周りも輝きを照らせるから、皆さん、輝いてください」ってイヤモニ(イヤーモニター)を通じて言ってくださって。もう、メイクとれちゃうから泣かせないで~ってカンジになりましたね。コロナ禍でのリハーサルは当然、感染対策を徹底しているし、パラリンピック前は大雨や強風の日が多かったので中止になることもあったんです。それまで分けてやっていたリハを映像や、(佐藤)ひらりチャン(20才)の国歌斉唱なども込みで“通し”でやったとき、初めてストーリーの素晴らしさを知って、号泣してしまいました。
実は衣装を替えながら全シーンに参加しているのは私だけなんです。だから多くの人とかかわったんですけど、それぞれの障がいを忘れてしまうぐらい心と心が近づけて……、本当にいい経験をさせてもらいました。
本名の「大西賢示」がすごく大事で、いじられるのも好きだけど……
山田:それは愛チャンのお人柄だと思いますよ。私が構成にかかわっていた『魔女たちの22時』(2009~2011年・日本テレビ系)の企画で愛チャンが『ミスインターナショナルクイーン2009』に出場することになって、見事、優勝したときにも、美貌やパフォーマンスだけでなく、世界のニューハーフの皆さんに少なからずあった壁を取り除く役割を懸命に、でも笑顔でやっていたのは愛チャンだったから。
はるな:覚えています。まだ日本ではLGBTなんていう言葉も意識もほとんどなかった時代。ニューハーフという生きづらさだけでなく、たとえば軍事政権の国から参加していた人は、夕食のとき、涙ながらに、明日、生きていくことの大変さや平和への想いを語ってくれるんです。そういう経験をさせてもらったから、何か世界で発信したいって、ずっと思っていたんです。
最近は講演会に呼んでいただく機会も多いんですが、そういうときはタイトルに必ず「LGBT」と入っているんです。(障がい者情報バラエティーの)“『バリバラ』(NHK Eテレ)ファミリー”として、『バリバラR』(NHKラジオ)や、『バリバラ』に出させていただいているときでさえ、「自分らしさ」と「多様な性と多様性」との折り合いをどうつければいいのか。どう表現したり伝えたりすればいいのか、悩んでしまうこともあります。たとえば私は本名の「大西賢示」がすごく大事で、ずっと持っていたい。いじられたりするのも好きなんです。でも、本名を聞かれたり、いじられたりするのが苦痛になる人もたくさんいる。みんなが「はるな愛」ではないことも伝えていきたいし、境目のようなものをなくしていきたい。人が「LGBT」という頭文字でカテゴライズされない社会になることがいちばんいいなって思いますよね。