萩野「虐待の連鎖過程ではその子だけが可哀想ということは実はなく、親たちも含めた全員が広義の被害者なのかもしれない、とかね」
鮎川「共感する登場人物も結構違うよね?」
萩野「彼女が『最低だ』と言う人を『彼も大変なんだよ』と私が庇ったり、その逆だったり。生きづらさと一口に言っても、解像度は人それぞれですから」
鮎川「でも最近、言われたよね。『2人とも性格は明るいけど、芯が暗い』って」
萩野「ハハ、言えてる(笑)」
実は「名探偵とは相性が悪いかもしれない」というほど重い題材を震災の前後20年に亘る物語に昇華させ、読者が立つ「今、ここ」をも照射する手腕はさすが。降田天とは、後ろめたさに蓋をするより、書くことを選ぶ、2人で1人なのだ。
【プロフィール】
降田天(ふるた・てん)/萩野瑛(はぎの・えい、1981年茨城県生まれ、写真左)と鮎川颯(あゆかわ・そう、82年香川県生まれ、写真右)によるユニット。共に早稲田大学第一文学部卒。2007年に鮎川はぎの名義の『横柄巫女と宰相陛下』で小学館ライトノベル大賞期待賞を受賞しデビュー。2014年『女王はかえらない』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、以降は降田天として活動している。2018年「偽りの春」で日本推理作家協会賞短編部門受賞。萩野氏=158.5cm、B型。鮎川氏=168.5cm、A型。
構成/橋本紀子 撮影/朝岡吾郎
※週刊ポスト2021年10月15・22日号