地獄に堕ちるのは人生順風満帆のとき
「ただね、借金取りや見張り番にはいつもお茶を出していたよ。他人に気遣えとは母親の教えだったし、『誠意』しかやるもんがなかったからね(笑い)。そしたらそのうち、借金取りにも情が移ったんだろう。アタシから取り上げた休業状態のクラブを遊ばせておいてもしかたがないと、そこのママを私にやらせてくれることになった。その頃には、貧乏生活はもう2年半を過ぎていたね」
──それで10億の借金が返済できた、と?
「そんな簡単にはいかないわよ。(頭を指して)ここよ、ここ。自分の連れてきた客の売り上げを、借金取りの目を盗んでプールしてたんだ。中には300万とか500万とか“お小遣い”をくれるお客さんもいたしね。店も流行った。借金取りが客を引っぱってきてくれるし、常連客も戻って来る。評判が評判を呼んで、毎日が満員電車状態だった」
──そのお金はどう使ったんですか?
「新しい商売の運転資金にしたの。その金で赤坂の地下駐車場100坪を借りて、そこにディスコをオープンさせたのよ。赤絨毯を敷き詰めた最先端のディスコ。これが流行った。1日に何百人も来てね、売り上げの札束なんて毎日、ゴミを入れる大きなポリタンク3つに、足でギュウギュウ押し込んでたね。おかげで借金は3年で返済し終えたよ」
細木さんは借金返済どころか、新たに財をなす。その間も独学で勉強を続け、44歳で初著『六星占術による運命の読み方』を上梓する。「人生のカリスマ」の誕生である。
「いま、『借金苦で困ってる』って相談に来た人には、『プライドを捨てて何でもやれ』、『マグロ船に乗れといわれたなら乗って借金を返してこい!』っていってるのよ。何が何でも借金を返せってね。それが周囲への恩返しでしょ。
自分も借金したからわかるけど、借金は額じゃない。親兄弟も友人知人も、『自分のことを誰も相手にしない』状況にまいってしまうの。これが生き地獄。でも生き地獄も見方を変えれば、人生のいい修行と経験だよ。地獄にいるからこそ、素直に自分を反省できる。わかる?」
──ではなぜ、簡単に地獄に堕ちてしまうのでしょうか。
「地獄に堕ちるときは、人生順風満帆のときが多いの。アタシもそうだった。調子がいいから、自分の器の大きさが見えなくなって、うぬぼれてしまう。ここが頂点だと勘違いするんだね。周囲への感謝も、謙虚さも、何もかも忘れてしまう。あとは、色と欲に溺れるだけ。これが道理。堕ちるのはね、簡単なんだよ」