歴史論争ではないが、1月10日には〈韓国式お辞儀をしないアイドルグループ中国人メンバー炎上〉という記事もみられた。中韓混成女性アイドルグループのサイン会で、集まったファンへの新年の挨拶として他のメンバーがひざまずき、両手の甲を額に当てて頭を下げる韓国式の最も丁寧なお辞儀「クンジョル」をするなか、中国人メンバー一人だけ中国式のお辞儀で済ませたことがきっかけで、ネットが大炎上したのだ。

 韓国ユーザーのなかには、「中国人アイドルを追放しろ」など激しい批判コメントもあったが、全体としては文化の違いに理解を示すコメントが多かった。

 それとは対照的なのが中国ユーザーたちで、「韓国はもともと中国の属国」「親は子に向かってひざまずかない」「母親(中国)に盾突くな」など、罵詈雑言の嵐が吹き荒れた。当のアイドルが急遽中国に帰国したことが、身の危険を避けるためと解釈され、中国のネットユーザーたちをさらに刺激したようである。

 その大半は、「自干五」と呼ばれる人びとかもしれない。「自干五」とは、金銭を見返りに中国政府のプロパガンダを広めるインターネット集団「五毛党」に対し、同じことを自主的、無償で行なう人びとのこと。過激な書き込みを躊躇わない危険な存在とみられている。

 歴史認識の違いは途方もなく大きな壁にも思えるが、歴史的な事実はやはりただ一つ。見方によって異なるのはあくまで解釈や感想にすぎない。韓国と中国に日本も含め、恣意的な解釈や神話をそのまま史実とする歴史観、異文化を見下す排他的な感情などを捨て去り、誰とでも歴史や文化を冷静に語り合える日が一日も早く訪れよう願いたい。

【プロフィール】
島崎晋(しまざき・すすむ)/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)など著書多数。最新刊に『鎌倉殿と呪術 怨霊と怪異の幕府成立史』(ワニブックス)がある。

 

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