会見前に羽生はフリー終了から4日ぶりに氷上を滑り、会見では「ぼくはぼくのフィギュアスケートが好きだなと思えた今日の練習だった」とサバサバと語った。だがそんな笑顔あふれる会見に複雑な感情を抱いた人もいる。フィギュアスケート女子でトリノ五輪4位の村主章枝さんもその1人だ。
「明るく、最後まで礼を尽くす様子はさすがだと思う。でも若干の違和感もぬぐえなかった。『悔しい』『次は頑張る』という感情を隠さない負けず嫌いの羽生選手が、今回の会見では満面の笑みを浮かべて『満足している』と話すのを見て、いつもとは違うなと感じました」
長年、羽生を見てきたフィギュア関係者もこう話す。
「最初は引退会見とも噂されましたが、進退を直接口にすることはありませんでした。それなのに、ソチ五輪と平昌五輪で2大会連続の金メダルを取ったときより、“本気でやり切った感”があふれ出ていた。ああ、もうさまざまなプレッシャーや思いから解放されたのかなと感じたほどです。
会見が終わった後も各局のテレビ番組に出演して、穏やかに北京五輪を振り返った。かつての鬼気迫る羽生選手からは考えられないような姿勢に、引退会見ではないと言いつつも、どこか“引き際”を考えている様子が見て取れました」
今回の五輪でファンの目に焼き付いた光景がある。フリーの演技を終えた羽生は、刀を鞘に納めるポーズを取り、「戦いは終わった」ことを表した。そしてリンクを降りる際には氷を拾って顔に当て、こう語りかけた。
「ここまで跳ばせてくれて、ありがとう」
そこには確かに悔しさというよりは、満足感がにじみ出ていた。会見で今後について聞かれる場面もあり、羽生は苦笑交じりにこう答えた。
「4回転半降りたいなという気持ちは少なからずあって、それとともに自分のプログラムを完成させたい気持ちはあります。ただ先ほども言ったように、自分のアクセルを完成させちゃったんじゃないかという自分もいるので、これから先フィギュアスケートを続けていくとして、どういう演技を目指したいかとか、みなさんに見ていただきたいかとか、いろんなことをいま考えています。まだ次のオリンピックとか、どこでやるのかとか自分で把握できていないし、正直混乱しているんですけど」