ロシアの軍事的圧力により緊張状態が続いているウクライナ。国境周辺地域にロシア軍が集結するなどしており、日本政府もウクライナの在留邦人に避難勧告を出すなど、不測の事態に備える動きも進んでいる。首都キエフ在住の元駐日ウクライナ大使館文化担当のマリア・ペヴナさんは、現地の状況をこう伝える。
「ここ数日かなり緊迫していて、不安でいっぱいです。いざという時にどのように退避すればいいのか考えているところです」
日本から約8000キロ離れているウクライナは、実は大の親日国としても知られる。小学校では松尾芭蕉の俳句、高校では川端康成の小説『千羽鶴』が教えられているという。
キエフの国立ウクライナ書籍・印刷博物館では、現在、日本とのプロジェクト・コーディネーター・通訳として活動するマリアさんが企画した、日本ウクライナ国交樹立30周年記念展覧会「ウクライナ・日本 心の響き」が昨年12月から開催されている。コロナ禍、そして非常事態下にもかかわらず、好評のため3月まで延長されることとなったという。
この展覧会は写真家・稲田美織氏の作品に心酔するマリアさんが3年ほど前から企画し、稲田氏の伊勢神宮の写真とウクライナの著名な画家オレクサンドル・イワフネンコ氏の絵画を同時に展示したものだ。
「今回の展覧会は日本の魂である伊勢神宮の写真とウクライナの伝統的な景色や情景が描かれた絵画を一緒に展示することによって、表面的には異なっていても、根底では通じ合っていることを表現したいのです。稲田さんはニューヨークで9.11を目撃して以来、調和の鍵を探し求めて世界中の聖地を撮影し続け、日本人の心、調和した世界、自然とのつながり、循環共生思想の大切さを発表している。その日本の美しさや魅力は、ウクライナにも通じるものだと確信しています」(マリアさん)
稲田氏とウクライナとの関係は十数年前に遡る。稲田氏が語る。
「当時、駐ウクライナ大使だった馬渕睦夫氏からウクライナを撮影してほしいとのオファーがあり、1か月近く滞在して各地を撮影し、その後も数回訪れました。街の電柱にコウノトリが巣をつくっていたのには驚きましたね。
キエフから飛行機で1時間くらいのイワノ・フランキフスク州を訪れた時には木造の教会が建っていて、どこか日本と通じるものを感じましたし、昔の人は木を大切にする精神から一生にたった一本の杖だけを作っていた、という話が大変興味深かったです」(稲田氏)