手嶋:そうした多国間の枠組みを前提にすれば、中国に対する発言力を強めることもできる。「米国なきTPP」で、日本は最大の経済大国にして“TPPの先住国家”。中国を加盟させるか否かのカードを握っている。仮に参加させる場合も条件を突きつけられる。岸田首相は中国の参加は拒否するとしているが、TPPに中国を取り込む戦略も選択肢に外交の幅を広げることも考えていい。
富坂:米中関係が悪化している今なら、日本が主導権を持って中国に足かせをはめるTPPにできると思います。
手嶋:冷戦が終わって中国の強権体制も崩壊すると断じた識者も多かったが、トウ小平の改革開放政策はそんな期待を見事に裏切った。強権体制は危険だが、中国経済も衰退していくという安易な前提には立つべきではない。
(了。前編を読む)
【プロフィール】
手嶋龍一(てしま・りゅういち)/1949年生まれ、北海道出身。NHKワシントン支局長として9.11テロを中継。『ウルトラ・ダラー』『鳴かずのカッコウ』などのインテリジェンス小説ほかノンフィクションの著書多数。
富坂聰(とみさか・さとし)/1964年生まれ、愛知県出身。北京大学中文系に留学したのち、ジャーナリストに。2014年より拓殖大学海外事情研究所教授。『ルポ中国「欲望大国」』など著書多数。
※週刊ポスト2022年3月4日号