2019年4月、保釈されたピエール瀧被告(時事通信フォト)

2019年4月、保釈されたピエール瀧被告(時事通信フォト)

キャンセルされた側にも復帰の機会を

 先日、社会復帰のための雑誌『Chance!!』に掲載された、ピエール瀧さんへのインタビュー記事が話題となった。ピエール瀧さんがコカイン使用の疑いで逮捕されたのは2019年のこと。バンド「電気グルーヴ」のメンバー、石野卓球さんの「(解散)するわけねーだろ、ばーか」という発言でも話題となった。

 インタビュー中でピエール瀧さんは、「ネットに書き込まれる悪口を見ていて思ったのは、とにかく”罰したい欲”がすごいなと」と、当時を振り返っている。「誰かを攻撃することでスッキリしたり精神の平静を保っているのでしょう」ともいう。

 自分の不安な気持ちを落ち着かせるために、ネットで人を攻撃するという側面は確かにあるようだ。デジタル・クライシス総合研究所による新型コロナウイルス関連の炎上事案分析(2020年5月)によると、コロナ禍で炎上の数は急増。コロナ前の1月の82件から、コロナ禍後の4月は246件と3倍になっている。SNS上の誹謗中傷などもニュースになることが増えた。

 このような増加の背景には、コロナ禍でのストレスや不満、不安などを、他者に当たることではらしている人がいると考えられるだろう。

 炎上は、実際はごく少数の人たちによる繰り返しの投稿から成り立っていることが分かっている。キャンセルカルチャーにおいても、はじまりには正当な批判があっても、途中から無関係で問題に関心も持たない人々がただ引きずり下ろすことを目的に参加してはいないか。そして炎上と同様に、ごく少数の人達が騒ぎ立てているだけという可能性がある。

 確かに“キャンセル”された人々の言動には問題があったし、非難すべきものは非難すべきだ。しかし引きずり下ろすことが目的となっていては、かえって問題の本質がぶれてしまうのではないか。

 ピエール瀧さんには、戻れる場があった。石野卓球さんや家族など、理解して支える人がいるからこそ、社会復帰できたのだろう。しかし、そのように恵まれた人たちばかりとは限らない。一度問題ある言動をしたら社会から抹殺される社会は、我々にとっても住みよい社会とは言えない。

 問題ある発言は問題にすべきだが、必要以上に強く糾弾したり、処罰が厳しすぎることはないか。糾弾された側も、処分を短絡的に決めてしまってはいないか。そのようなことはしっかりと考えていくべきだ。そして、キャンセルされた側に再起できる道を用意することも、必要なのではないだろうか。

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