怪文書の現物

怪文書の現物

「わきまえない女」やから

──それからも女性活躍に注力した。それでまた保守派を敵に回した。

「話しかけても無視される。目も合わせてくれない人もいましたね、昨日まで仲間だったのに」

──男社会の逆鱗に触れてしまった。

「いや、女性からも煙たがられましたね」

──それは、精神的にも応えたでしょう?

「応えたんかな? 私、『わきまえない女』やから、偉い人を怒らすのは天下一品。去る人もいれば、来る人もいる。昨年の選挙では3回も怪文書をまかれて、『稲田朋美を落選させる会』っていう車がぐるぐる回ったりしたけど、すごく票が伸びた。どこのたまり場に行っても、今までにないくらい女性が来てくれました。やっぱり福井のような保守色の強い地域ほど閉塞感を抱えている女性がたくさんいて、そういう人が応援してくれるようになりました。2万票も増えたんですよ」

──大都市から離れた地方にあって、コアな保守層を敵に回して戦える自民党議員はいません。しかも稲田さんの場合、それで支持層を拡大できた。

「だから、物事は突破してしまわなあかんのです。で、突破する時は最後がいちばんしんどい。最後の最後になると、『おまえ、やりすぎや』とか、『もうそのへんにしとけ』とか怒られる。でも、そこを突破できるかどうかだと思うんですね」

──なるほど。

「さっき話した寡婦控除の改革は突破できたけど、LGBT理解増進法案のほうは成立させられなかったので、まだ燻っちゃっているんですよね。クオータ制(候補者の一定比率を女性にする規定)も憲法14条を改正して、『実質的平等』っていう条項を入れないと、形式的平等で逆差別になる。フランスが憲法を変えて導入したんですけど、私が『憲法改正』と口にした途端、左派系のメディアからは『稲田の正体が現われた!』と叩かれる。もう、右からも左からも批判されているっていう状態です(苦笑)」

 稲田氏といえば、「右翼のアイドル」で、草の根保守運動の絶対的センターだった。教育現場で進むジェンダーフリーの流れが「過激」だとして、激しく反発してきた“闘士”が、いつの間にかウイングを広げていたことを知らなかった読者も少なくなかろう。

 総理を狙う保守政治家が、相反する立場の意見を寛容に取り込む姿勢に転じるのは珍しくない。かつての安倍政権も、歴史認識問題では右派の立場を貫き、安全保障では親米を鮮明にしたが、ロシアとの経済連携を深め、金融市場に躊躇なく介入しては、男女格差の解消にも積極的に取り組んだ。安倍氏本人は伝統的家族観を重んじる保守のイデオローグでありながら、国家の舵取りは「社会主義的」であるという二面性を持ち合わせていた。

 稲田氏は「全国民の代表」を意識するほど中庸に寄った。それも歴史と伝統にならえばごく自然な変化で、ある種の成熟だと思える。

「一言で言えば、私は無知だったのでしょう。DVの問題とか興味がなかったし、クオータ制は逆差別だと信じていましたが、女性蔑視や男女不平等を改善することに右も左もない。やっぱり党の政調会長を務めて、いろんな当事者の話を幅広く聞く機会が増えると、私は共感力が強い人間だから『何とかしなきゃ!』って目覚めたんですよね。LGBTも、性別への違和感を抱く子どもたちが不登校や自傷行為に追い込まれる実態を知って、これまで苦しんでいる当事者の存在に思いが至らなかったことを反省しました。国会議員は全国民の意見は聞けないし、全国民の立場は理解できないけど、『正しいこと』のためであれば、自分が変わる勇気を持つべきだと私は思います」

(第3回につづく)

【プロフィール】
稲田朋美(いなだ・ともみ)/1959年、福井県生まれ。早稲田大学法学部卒業。1982年、司法試験合格、1985年、弁護士登録。李秀英名誉毀損訴訟、「百人斬り」報道名誉毀損訴訟などに携わる。2005年に初当選後、内閣府特命担当大臣(規制改革)、国家公務員制度担当大臣、防衛大臣、自民党政調会長、同幹事長代行などを歴任。衆院福井1区選出、当選6回。

【インタビュアー・構成】
常井健一(とこい・けんいち)/1979年茨城県生まれ。朝日新聞出版などを経て、フリーに。数々の独占告白を手掛け、粘り強い政界取材に定評がある。『地方選』(角川書店)、『無敗の男』(文藝春秋)など著書多数。政治家の妻や女性議員たちの“生きづらさ”に迫った最新刊『おもちゃ 河井案里との対話』(同前)が好評発売中。

※週刊ポスト2022年4月1日号

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