人を感動させるストーリーとは何なのか
「AIのべりすと」をはじめ、昨今はクリエイティブな領域に役立つAIが次々と登場している。「AI×クリエイティブ」な世界で求められる資質や能力をStaさんはこう説明する。
「一時期、ゲームシナリオの世界は非常に男性的な社会で、完璧な物理法則を備えた素晴らしい箱庭を作れば、感動するストーリーが生まれるという風潮があったんです。それを批判したのが著名なゲームデザイナー、クリス・クロフォード氏で、そうした箱庭を作ったところで、突飛だったり笑えたりはしても、感動するストーリーは生まれないと言った。なぜかといえば、コンピューターサイエンスの技術者がロマンスを理解していなかったからです」
ロマンス。ここには理性や理屈ではわりきれない、人間の情が複雑に関わってくる。人を感動させるストーリーとは何なのかを、Staさんは考えるようになった。
「それで遅まきながら、20代に入ってから、小説を読むようになりました」
好んで読むのはトマス・ピンチョンなど海外のSF小説。他にはドストエフスキーを英語で読み、日本の作家では、『残像に口紅を』など、読者を巻き込む作品を描く筒井康隆さんが好きだという。
「そうして分かったのは、一つのジャンルには、ある程度の『型』があること。型が全くないと、ユーザーはどこに向かって進んでいるのか分からない列車に乗せられているような不安を覚えて、面白くないんだなと。で、すでに(【前編】)お話ししたように、AIというのは、人間にある程度合わせてくれるんです。だとしたら、自分がシナリオを書く上でも、AIは有用なのではないかと思いました。人間に適合してくれるAIは、ロマンスを理解しない技術者と、ロマンスの世界をつなげてくれる存在になるのではないかと」