2021年ノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎氏は「科学者が意思決定者に助言する方法、科学者と政策決定者の間のチャンネルというものについては、双方がコミュニケーションを取っていないと思う」と指摘した(EPA=時事)

2021年ノーベル物理学賞を受賞した眞鍋淑郎氏は「科学者が意思決定者に助言する方法、科学者と政策決定者の間のチャンネルというものについては、双方がコミュニケーションを取っていないと思う」と指摘した(EPA=時事)

日本は研究者もエンジニアも人権ないですね

 大学、大学院、そして研究機関や企業と歩む中で、技術者や研究者はクリエイターと同様に技術や経験、そして実績を蓄積してゆく。そうでない者もいるだろうが、企業や研究機関でそれなりのベテランになった者のほとんどはまさに「宝」だろう。日本はそうした「宝」をこの30年間、合理化とリストラの下に切り捨ててきた。それを欧米やアジア諸国、とくに中国が拾っていった。いまや日中の経済力はもちろん、技術力すら逆転され始めている。

「私は門外漢ですが、日本はまた何百人も研究者を辞めさせる。それを中国が手に入れるなんて申し訳なく思います」

 少し皮肉交じりで笑う。彼は日本のこういう姿勢が気に入らないとも言っていた。国同士の話ではなく同じ技術者(研究者も含むだろう)として納得できないという。不思議と同時に、怒りもあると。

「日本は研究者もエンジニアも人権ないですね」

 まさか中国人に「人権」を持ち出されるとは思わなかったが言い返せない。筆者もアニメやゲームに関係していた経験上、現場、とくに日本のアニメの現場がアニメーターに代表されるクリエイターの権利を尊重しているとは思えないからだ。そして現実に、今度は理研という日本を代表する国策研究所の研究者が大量に切られ、おそらくは海外に流出するのだろう。

「中国は日本人研究者や技術者のおかげで大国です。本当にありがたい話です」

 筆者との仲とはいえ「言ってくれるなあ」と苦々しく思うが、これまでも自動車、精密機械、重電、通信、鉄道、鉄鋼、農業、エンタメ、ありとあらゆる技術や研究は中国に渡った。それは日本で「不要」とされた日本人研究者や技術者が食ってくためはもちろん、それは彼らのリベンジマッチでもあった。たとえば今や世界的家電メーカーである中国ハイアール(海爾集団)の「アクア」ブランド(旧三洋電機)などまさに井植兄弟につながる「三洋魂」の発露だろう。アクアには多くの「三洋魂」の継承者も携わってきた。2000年代、そうした彼らを「使い捨てられるだけ」と嘲笑する向きもあったが必ずしもそうではなかった。

「日本はどうかしてます。優秀な研究者をクビにすることは、他国に渡すのと同じです」

 中国ではクビのことを「イカ炒め」と揶揄するのだが、彼の言葉もそうした中国語由来のスラングが混じっているため平易に改めている。その「イカ炒め」状態になりかねない理研の研究者、技術者たち600人、その中には多数の研究主宰も含まれている。研究主宰といえばその下で働くスタッフも含めてまさに国の「宝」、いま研究成果が出てなくとも、いずれ日本を救う結果を出すかもしれない。

「日本人はノーベル賞受賞を誇りますが、最近は日本国内で研究したわけではないのでは。お金も出さないし大事にされない、みんな日本から脱出してる」

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