「スマホを持った時点で、人と会わずに社会とつながる環境は整ってはいたんです。でもその一方で、われわれはやっぱり人と会わないとだめだという感覚も持っていました。コロナが一気に進めたのは、文化としても『もうわざわざ会わないでいいんじゃないの』という意識で、コロナが収束した後、人と会うのが大事だとどうやって伝えていけばいいのか考えてしまいますね」
社会が豊かになり、情報機器の普及で個人化が急速に進んだことが、「人それぞれ」と言えるような現状を生んだと石田さんは分析する。
かつて日本が「ムラ社会」と言われていたころから見ると、社会状況は大きく変わった。結婚するかしないか、子供を持つか持たないか、といったことでも、個人の意思が尊重されるようになってきた。
だが、だれもが自由に自分の意見を言えるかというと、そうでもない。相手を否定してはいけないという意識が強く働くあまり、これまで以上に萎縮して、慎重に言葉を選ぶことを強いられる。
言葉が「リスク化」すればどうなるか。安心して喋れる環境を探して、自分と意見の近い人と集まることになってしまう。
「ものすごく少数派であろう意見でも、SNSの#(ハッシュタグ)で検索すれば、同じ意見の人を1000人ぐらい簡単に集めることができてしまう。一人ひとりが端末を持っていなかったときの皮膚感覚とは、全然違ってきていますよね」
「居心地のいいものだけで」はやっぱりいいことではない
本書では、人に迷惑をかけてはいけないと思う「迷惑センサー」や、特例的に利益を得ている人へ発動される「特権センサー」も紹介されている。社会の分断は年々、進む一方に感じられる。
「さみしさ」や孤独を感じる人が増え、ほかの国と比べてその割合は高いという調査もあるそうだ。
石田さんはずっと、社会学者として孤立や孤独の問題を研究していた。
「1993年に大学に入学、1997年に卒業したんですけど、ちょうどポケベルが出てきて、PHSや携帯電話が爆発的に普及しはじめた時期なんですね。それで一気に、『人と溜まる』ことが難しくなった実感があり、そんなところから『孤立』『孤独』や友人関係を軸にした研究をするようになりました」
「人それぞれ」をテーマに、若い人向けの新書を書いてほしい、というのは編集者からの注文だったそうだ。