研究書ではふつう、自分の意見や主観を入れることはない。唯一、「あとがき」には、思ったことや自分自身についても書けるので、「あとがき」を書くのが好きだったという。
「研究書ってやっぱり制約が多いんですよ。この本は新書なので、『あとがき』を書くのに近い感じだったかもしれません。もともと、椎名誠さんのエッセイとか読むのが好きで、この本はなるべくわかりやすく、自分の考えていることをはっきり書くようにしました」
個人の意思も多様性も、それぞれ尊重されるべきだというのは間違いない。けれども目の前にいる人に対しては遠慮し、批判を避けて自分の殻に閉じこもる一方で、意見の合う人どうしが集まり、意見の異なる人は寄せ付けない分断型の社会になるのも、本来望んでいたものと違うはずだ。
「多様性は非常に重要だし、もちろん尊重されるべきなんですけど、それだけを原理的に追求しようとすると、ものすごい生きづらさを生んでしまう。そのことをもう少し考える必要があると思いますが、そういうことを言おうとした時点で、袋叩きに遭ったり、キャンセルをちらつかされたりする。そうなると怖くて誰も触れられない状況になり、健全ではないと思います。
異質な他者って大事なんです。周りに、自分にとって居心地のいいものしか残せないのはやっぱりいいことではありません。好きではなくても、いま一緒にいるから何とかやっていくしかない、という感覚をもう少し磨いていかないと、分断が広がるばかりで、世の中がますます息苦しくなってしまいます」
【プロフィール】
石田光規(いしだ・みつのり)/1973年生まれ。2007年東京都立大学大学院社会科学研究科社会学専攻博士課程単位取得退学(社会学博士)。現在、早稲田大学文学学術院教授。著書に『孤立の社会学—無縁社会の処方箋』『つながりづくりの隘路—地域社会は再生するのか』『郊外社会の分断と再編—つくられたまち・多摩ニュータウンのその後』『友人の社会史—1980-2010年代 私たちにとって「親友」とはどのような存在だったのか』がある。
取材・構成/佐久間文子
※女性セブン2022年5月5日号