貧困や格差については、何度も国会でも取り上げられているが、政府は真剣に取り組む姿勢なのかあいまいだ(イメージ、時事通信フォト)

貧困や格差については、何度も国会でも取り上げられているが、政府は真剣に取り組む姿勢なのかあいまいだ(イメージ、時事通信フォト)

普通の人は右でも左でもなく下になりたくない、なるべく上になりたい

「でも高齢者になっても『無能からスタート』なんて嫌ですね。この前、お爺ちゃんの警備員が暑い中マスク姿で工事現場に立ってたんですが、班長らしい若者に怒鳴られてました。寿命も間近になれば割り切れるのかもしれませんが、私は嫌ですね。こういうこと言うと『酷い奴』だと思われるかもしれませんが、本音のところはみんな嫌でしょう」

 Bさんはよほど未経験仕事の繰り返しが嫌だったのだろう。やむを得ず転職回数の多くなってしまった世代でもある。いまは子どもの成長が楽しみということで、「子どもに一発逆転を託します」と冗談を飛ばしていた。

「私もBさんみたいに結婚したいですけど、40歳も過ぎてこの年収で、とくに出会いもありませんから一生独身でしょう。税金を払うだけ、ご飯を食べるだけの仕事をして年をとる国なんて嫌ですね。むしろ景気のいい国が占領してくれないかな、なんて思います。どちらにしろ上がり目がないなら、国なんか変わっても一緒なんで、一度チャラにしてくれたほうがありがたいです」

 そう語るAさんの目が怖い。ある野党のブレーンが「ロシア軍には、まず大阪から上陸して欲しいな。自分が大阪人だったら、思わず『解放軍がやって来た!』と喜んでしまうわ」と語って物議を醸したが、コロナ禍も収まらず、賃金も上がらぬままに税金と物価は上がり続け、経済的にも明らかに凋落を続ける日本を見限る、いや見限らざるをえない人もまた、明らかに増え続けている。最近のポピュリズムを全面に押し出す新興政党の多くはそこを上手く突いている。「いまだけ金だけ自分だけ」も本音のところでそれほど忌避されていないことは、そうした行動や言動で人気を博すインフルエンサーやネット配信者が存在し、稼げていることで証明されている。

 いっぽう、日本人だけでなく外国人、とくに東南アジアの方々が日本では働きたくないとそっぽを向き始めた。サラリーマンは問答無用の天引き重税、自営業者はインボイス導入、外国人労働者は人権無視の低賃金、それでも政府は安泰なのだから、見限るしかないと思うのは無理もない。いや、見限りたくなくともこの国にいられなくなるほどに生活の苦しい日本人が増える。その時は日本人も、人権無視の低賃金で海外に出て働くことになるのだろうか。

 30年間平均年収の変わらなかった日本、多くの国民の手取りが増えないことはもちろん、使えるお金が減り続けているというのは恐ろしいことなのだ。回り回って国力も疲弊する。それをこの国は、与野党ともに1990年代から放置してきた。そのツケを現在の現役世代に押し付けているわけだが、はっきり言って日本の税金は何重にも取りすぎだ。せめて国力の残っているうちに、税制改革はもちろん一時的にも何らかの大幅な減税はすべきだろう。とくに社会保険料はあまりに高すぎる。江戸時代は5公5民を超えると一揆が起こると警戒されたが、それどころか現在のサラリーマンは実質的に6公4民、非正規は7公3民に近くロシア支配下のウクライナ占領地さながらである。Aさんが続ける。

「右とか左とか、正直どうでもいいんですよ。中国もロシアもイデオロギーで動いてないじゃないですか。アメリカとかヨーロッパの上位国みたいに豊かになりたい、強くなりたいでしょう。日本の政治家だけいつまで右とか左なんですかね、普通の人はそんなのどうでもよくて、下になりたくない、なるべく上になりたい、下をつくりたい、上がむかつく、なんですよ」

 鋭い指摘、左右の時代は終わり、上下の時代になったということか。もっと言えば「上になりたい」なんてどうでもよく、「下になりたくない」「上がむかつく」なのかもしれない。宮城県で女子中学生を刺した43歳のある意味「弱いものを傷つける」という下に向かう行動もその亜流なのだろうか、安倍元首相を銃撃した41歳は「上」に向けたということか。確かに政治的主張ではないと語っていると報じられている。右とか左でなく、もはや上下の話なのかもしれない。

 一般国民の恐怖と不安、それは確実にこれまでの低所得者層から、さらなる増税により普通に暮らせたはずの中間層にまで侵食しはじめている。重税と物価高騰で使える金が減り続け、元首相が銃撃され死亡するという日本史に残るこのコロナ禍と社会的混乱の中、私たちはどうすればいいのか、家族のため、自分自身のためにいま一度考え直さなければならない時に来ている。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員、出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。

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