門脈は1分間に約1リットルの血液を肝臓に流している。血流を止めると、全身の血が腸に流れ込み、うっ血する。中尾医師は民間企業と共同開発した抗血栓性カテーテルを用いて、門脈の血液を大腿静脈や臍静脈などにバイパスさせるという画期的な術式を考案。それまで諦めざるを得なかった多くの患者の命が、この術式によって救われてきた。
「私はまだまだうまくなる。昨日より今日、今日より明日の方がもっといい手術ができる。そう思いながら、毎回手術に臨んでいます」
今も、よりよい術式の開発に余念のない中尾医師の存在は、すい臓がん手術の歴史そのもの。古希を超えてなお、中尾医師は高みを目指して研鑽を積んでいる。
撮影/内海裕之 取材・文/小野雅彦
※週刊ポスト2022年7月29日号