のちにテレビのコメンテーターとしても活躍する河上和雄氏も「吉永軍団」のひとり(時事通信フォト)

のちにテレビのコメンテーターとしても活躍する河上和雄氏も「吉永軍団」のひとり(時事通信フォト)

 吉永の功績は組織の地位も変えた。元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏が言う。

「ロッキード事件を機に世間の特捜部への評価はガラリと変わりました。例えば、『明日、上場企業の役員の取り調べをしたい』と特捜部が言えば、その役員は海外出張していてもとんぼ帰りする。あの田中角栄を逮捕したことで、特捜部は大企業から見ても脅威になった。特捜部と政治家の関係にも変化が生まれ、ロッキード事件後からリクルート事件(1988年)の頃までは、特捜部は特に政治家に対して強かったと思います」

 特捜部のブランドが確立したことで、仕事は苛烈を極めたという。

「世間の期待の高さもありますからね。私が在籍していた頃は土日関係なく地道かつ綿密に捜査し、1年のうち、休日は10日ない程。日々のプレッシャーで肝臓が悪くなりました。通算6年ほど在籍しましたが、特捜部を離れると肝臓の数値が良くなるんです(笑)。それほど多忙な部署でした」(若狭氏)

 政治権力に屈しない、自分の芯を貫く強さのある人物が吉永のもとに集い打ち立てた金字塔。それがロッキード事件だったと高尾氏は語る。

「検察トップに上り詰めた吉永さんだけでなく、のちに検事総長になった松尾検事などロッキードの捜査に当たった多くの検事が出世しました」

 吉永は2013年6月、肺炎のため鬼籍に入った。

 若狭氏が言う。

「近年は力を持った大物政治家に対して、検察は及び腰になっている。森友問題でも結局、誰も処分されませんでしたよね。こんな時代だからこそ、権力を恐れることなく事件解明に突き進んでいた吉永軍団のスピリットが必要とされているのではないかと思います」

 巨悪を眠らせるな──そんなカリスマの号令が令和の特捜部にも届いているのだろうか。

(了。前編から読む

※週刊ポスト2022年9月2日号

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