「国は予算を減らすだけでなく、さらに研究の選別をしました。選別は構いませんが近視眼的な誤った選別をしたのです。それが基礎研究をさらに追い詰めました」
結果、短期的な成果を求められるままに基礎研究の空洞化を招いてしまった。そしていま、研究者の大リストラに至る。
「国立大学も理研と同じように研究者の雇い止めが始まっています。この国は本当にどうするつもりなのでしょう」
東北大学は2022年度末で若手研究者を中心に239人が雇い止めになるおそれがある。大阪大学や九州大学でも同様の事案が起こる可能性があるという。東京大学に至っては346人が雇い止めと予想されている。理研の600人と同様、このような旧帝国大学、日本の優秀な研究者の多くが集う大学ですら大量の雇い止め、リストラが実行されてしまうかもしれない。
「とくに中堅や若手の研究員は有期雇用ばかりですから10年でクビです。これからという研究者ばかりなのに」
有期雇用が大半となった国立大学の研究員。2013年の改正労働契約法で5年を超えた場合は労働者の希望で有期雇用から無期雇用に転換すると定められた。研究者や教員の場合は10年という特例だったが、これがそっくりそのまま杓子定規に当てはめられてしまった格好だ。さらなる特例を急ぎ取り決めてもいいほどの事態にも関わらず、国の対応は及び腰だ。
「このような言い方は誤解されるかもしれませんが、この国の予算からすれば彼らの雇用など小さな金額のはずです」
中国は日本が勝手に優秀な日本人を捨ててくれると大喜び
確かに言い方が難しいが、2021年5月に会計検査院が指摘した「国の無駄遣い」を見ると筆者もそう思わされてしまう。「アベノマスク」は115億円分が倉庫に余り、再検品で21億円、保管費も2020年8月から2021年3月までで6億円かかった。他にもGoToトラベルではキャンセル対応費用として旅行代理店に1157億円払ったもののホテルや旅館に行き渡ったかは不透明、接触確認アプリ「COCOA(ココア)」の度重なる不具合による追加対応や、農林水産省の「全国農地ナビ」の閲覧システムが137億円かけたのに未更新、など総額2108億7231万円の「無駄遣い」および「不適切経理」と指摘された。
「基礎研究は分かりづらいかもしれませんが、かつての『科学大国日本』時代のように、やがて大きなリターンとなり、長い目で見てこの国を豊かにしてくれるでしょう。若者の研究に猶予を与えられずに、なにが国家ですか」