かつて日本に捨てられた日本人技術者の一部は韓国で厚遇され、結果を出したからこそ現在の韓国がある。同じように日本に捨てられた、もしくは日本を捨てた研究者たちが中国でさらなる結果を出すかもしれない。日本はもちろん欧米に比べて給与面では厚遇とは言えないが、研究者として食っていくため、そして十分な研究環境を求めた果てのリベンジマッチである。
筆者はいつかの中国人技術者の言葉を、また思い出す。
「優秀な人が安かったり辞めさせられたり。とても不思議だと思っています」
国は研究者も、技術者も、クリエイターも、あまたの専門職も「捨ててもすぐ降って湧いてくる」とでも思っているのだろうか。それともベテラン政治家は「どうせ寿命はあと10年20年だからその後の日本などどうでもいい」とでも思っているのだろうか。まさか「いずれ国ごと売り渡す」つもりなのだろうか。
そうとしか思えないほどに、今回の理研はもちろん、国立大学法人研究者の任期雇い止めという大量リストラは「不思議」としか言いようがない。日本が誇る新幹線も、優秀な自動車エンジンも、壊れない家電も、精密な光学機器も何もかも中国や韓国へ売り渡したのは日本である。そうしてついに国家百年の礎たる基礎研究者、それも若手まで捨て始めた。
科学も技術も、結果が出ないからと性急に捨てる行為を繰り返し、この国と子どもたちは将来、どうして食べていけというのだろうか。
【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員、出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。