「CT画像で肝臓にドーナツ状の影を見たときには大きなショックを受けましたし、妻は泣いていました。思い返せば私は、15年間緩和ケア医として働く中で2000人を超える患者さんを見送ってきた。多くはもう治療のすべがない、終末期の患者さんです。そこに思い至ると、治療の手立てがあることそのものがありがたいことだと、少しずつ病気を受け入れられるようになりました」
大橋さんが夫婦でがんに立ち向かったように、がん治療は、家族の生活にも少なからず影響を与える。小西さんは家族にどう打ち明けるか頭を悩ませた。
「当時、息子は大学受験の真っ最中。センター試験を控えていたので、妻にだけ状況を伝え、息子には受験が終わるまで黙っていました。妻も、自分の父が80代で大腸がんの手術を受けたばかりだったので、負担をかけないように胃カメラで撮ったポラロイド写真を見せながら“早期のがんだから、大丈夫”と何度も説明しました。
受験が終わった息子にはどう伝えるべきか悩んだ末、ずばり『胃がんになった』と伝えたら、『内視鏡で治るならよかったね』と、さらっと返され、拍子抜けしたことを覚えています」
(第2回へつづく)
【プロフィール】
小西敏郎さん/東京医療保健大学副学長・医療栄養学科長。消化器のがん手術を中心に行う外科が専門。2007年1月にステージIの胃がんが、2009年にステージIの前立腺がんが見つかり、どちらも手術によって切除した。毎年、年始の検診を習慣づけていたことで、早期に発見できた。
唐澤久美子さん/東京女子医科大学放射線腫瘍科 教授・基幹分野長。乳がん専門医。2017年に乳がんがステージIIの状態で見つかる。想像以上に強く出た抗がん剤の副作用に苦しみ、緊急入院したことも。心身ともに大きな負担を強いられることになった治療の日々の中、仕事にも復帰し、キャリアを重ねた。
大橋洋平さん/海南病院緩和ケア病棟・非常勤医師。2018年に年間10万人に1人といわれる希少がん・ジストを発症。非常勤医師として働きながら、現在も抗がん剤で治療を続けている。書くことが生きる力になっており、2022年11月には『緩和ケア医 がんを生きる31の奇跡』(双葉社)を出版予定。
田所園子さん/緩和ケア医。2010年にステージIの子宮頸がんが見つかり、翌年に全摘出。当時、高知県で3人の子供を育てながら働いていたため、地元で治療を受けることを選択。医師として仕事に復帰してからも、自身の病気を受け入れるのには時間がかかった。
居原田麗さん/麗ビューティー皮フ科クリニック院長。2020年、ステージIの子宮頸がんが判明。その中でも小細胞がんと呼ばれる希少がんであり、広汎子宮全摘出手術をするも2021年に肝臓とリンパへの転移、2022年に腹膜播種が見つかる。現在も治療を続けており、その日々をブログでも発信し大きな反響を得ている。
イラスト/飛鳥幸子
※女性セブン2022年11月3日号