内診台に座るまでに2人の男児がいなくなってほしい。そう念じたのもむなしく、私の名前が呼ばれた。そして診察室のドアが閉まったとたん、私は涙ぐみながら女性医師に不快を訴えていた。
えっ、キャラが違う? そう、そこなのよ。ふだんの私なら速攻で苦情を言ったに違いないのに、病院だと、特に婦人科系の病院だとなぜか言えない。それくらい病院は私に緊張を強いるのよ。
もちろん、今回入院した大学病院でだってそう。血液検査を行うたび、血を吸い上げられると思っただけで気が遠くなって(誇張ではなく)大騒ぎをしてしまう。
やがて病巣が見つかり、大きな手術をしなければならなくなるかも……そう思うと、恐怖が頭から離れない。気持ちがどんどん弱くなっていく。
もっと節制した生活を送るべきだったとか、あれを控えておけばよかったとか、悔やまれることが多い。
そういえば、「卵巣が腫れている」と最初に指摘してくれた老医師が処方してくれた漢方薬を私はのみ続けなかった。処方されたのとは別の市販の顆粒の漢方薬をのんでいた。それでも、半年後に検診に行ったら、「卵巣、問題ないですよ」と診断されたの。それですっかり気をよくして、翌日から卵巣のことも漢方薬のこともすっかり忘れていたの。
人間の体は水もので、検診の結果はその日そのときのこと。日が経てば変わることをもっとわが身に引き寄せて考えるべきだったと思う。
60才の人間ドックで「きれい」と言われた子宮もそう。今回、手術前に12cmに腫れた卵巣をさまざまな角度から検査したら「原発は子宮」だと言われた。担当の女医さんから「これまで『チョコレート嚢胞』と言われたことはないですか?」と聞かれたけれど、初めて聞いた病名だ。
いずれにしても、ふだんの生活でちょっとした変化を見逃さない。そして、変化をキャッチしたらつべこべ言わず、何も考えず、婦人科に行く!検査をする!! それに尽きるといまさらながら思う。
ともあれ、くよくよ考えているうちに、お腹は日々大きくなっていく。そして、「お腹が急激に膨らみ出したのは2か月前からです」と言うと、医師がサッと顔を曇らせた。
いよいよ心身ともに素っ裸になるときが来た──崖っぷちに立つまで私はそのことに気づかなかった。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/空中ブランコや富士登山などの体当たり取材でおなじみ。昨夏から故郷・茨城で母を在宅で介護し、今春、看取った。
※女性セブン2022年11月24日号