むろん〈どうしてこれが俺だと思うの〉と抗議もしたが、実はジャクソンも動画内の〈世界地図が描かれたカーペット〉に見覚えがあった。そこはゲイが集う自然公園の隣の〈ホテル・サジタリ〉だった。
一方、ジャクソンが防犯ビデオの開示を求め、警察に被害届を出す間、高級ブランド店でドアボーイを務めるジェリンは、ゲイの警備員〈トシ〉から動画をネタに脅されていた。困ったジェリンは海外でも人気の配信系ポルノスター、イブキに相談。彼は〈おれってことにしてみる?〉と本人役を買って出てくれたが、その嘘を見抜いたのが嘘と笑われることが大嫌いな知人、エックスだった。
やがて件のロンティーを送り付けた犯人探しも兼ね、頻繁に会合を重ねた4人は、〈なにが『入れ替わってるう~?』だよ〉〈白紙に黒い線引いて、はい、輪郭です。はい、白紙部分は肌です。自分たちと同じ人間です〉〈どんだけお気楽なんだ〉などと毒づき、その流れでジャクソンが作戦を提案。交換殺人にも似た復讐を試みるのだ。
心乱されること必至の感情の塊
「世の中には小説が好きで小説を書く人と、書きたいテーマがあって小説を書く人がいるとして、僕は断然後者。だからその動機に負けないくらい誰が読んでも飽きない小説にしたかったし、人種とセクシュアリティに関する差別や抑圧の構造のどちらにも共通するつらさや、楽しいこともある感じを、4人のざっくばらんなお喋りに書いてみたかった。差別はある。でも本人達は結構楽しく、ヘラヘラ生きてもいいんだよって。
本当はこういうドラマがネトフリ(Netflix)とかにあれば楽しいのに、ないんですよね。誰でもズケズケ入ってこれるテンションや、深刻な話もぶっちゃけて話せる空間が作りたくて、文章のリズムや展開はもう誰も追いつけないぞってくらい、テンポを上げました」
そう。1人、また1人と仲間が増えていく際の疾走感や、その境目が溶け出し、〈自分がどんな成分でできた誰なのか〉〈どうでもよくなりながら眠った〉雑魚寝の安らぎ。またエックスが出演した人気リアリティーショー〈『嘘とパイ投げ』〉の胸を抉る顛末など、読む者は痛快さも切なさも渾然一体となった感情の塊に、終始心乱されること必至だ。