「その代表格が複数の成分を配合させて作る総合感冒薬で、咳止め薬や鼻炎薬、解熱鎮痛薬にも両方の成分が含まれており、注意が必要です。実際に、若者がこうした市販薬を乱用することが問題になっており、教育委員会から私のところに問い合わせが来ることすらあります。背景にはコロナ禍のストレスが影響しているとも考えられており、今後もこうしたケースは増えていくと考えられます」
薬に依存するのは若者だけではない。
「高齢女性が総合感冒薬をのんで不整脈や動悸を訴え、外来に来院した事例もあります。若い頃から体調が悪くなると“元気になるから”と早めに総合感冒薬を服用する習慣があり、加齢とともに副作用が出やすくなって、心臓に大きな負担がかかってしまったのではないかと考えました」
長澤さんが特に懸念するのは抗ヒスタミン薬の弊害だ。
「抗ヒスタミン薬が含有する『d−クロルフェニラミンマレイン酸塩』という成分は、脳の機能を低下させて眠気を誘います。最初はアレルギー対策のためだけにのんでいたはずが、徐々に眠れないときにものむようになり、服用量が増えていくというケースは珍しくありません」
薬剤師の三上彰貴子さんも声を揃える。
「抗ヒスタミン薬には脳の神経伝達物質『アセチルコリン』を抑制する『抗コリン作用』があります。抗コリン作用の強さは薬の種類によっても異なりますが、含有しているものには少なからず副作用がみられ、眠気が出るという特徴ゆえに、常用してしまう人は多いのです」
抗ヒスタミン薬は風邪薬、鼻炎薬、酔い止め、睡眠改善薬などの市販薬に含有されているため、気がつかないうちに服用量が増えて、無意識に依存しているケースもある。
「しかし量が増えるほど、認知機能の低下をはじめとして多くの副作用のリスクが上がります。前立腺肥大がある男性は、膀胱が緩んで尿道が収縮し、尿が出なくなる副作用が起きる可能性があります。
女性は40代以降になると緑内障が増えますが、抗コリン作用の薬をのむと眼圧が上がり、放置しておくと最悪失明することすらあります。また、ほかの薬と同様に抗ヒスタミン薬の中には長期にわたって服用すると肝臓や腎臓に負担がかかる成分もあり、機能障害が起こる可能性もあります」(三上さん)
平さんは、特に注意すべきは昔からある薬だと話す。
「医学の世界は常に進歩しており、同じ薬でも副作用や依存性が弱まるように繰り返し改良されています。しかし、市販薬の一部には古いままのものもある。たとえば、抗ヒスタミン薬には第一世代と第二世代のものがあり、一般的に第二世代の方が副作用が少ない」(平さん)
抗ヒスタミン薬の「世代」は必ずしもパッケージなどに記載されているわけではなく、購入時に薬剤師への問い合わせが必要になる。