面接の教官はNHKに出演中の「アメリカ人」
1960年12月、日本航空・臨時採用の2次試験が行われた。当時の日本航空の本社は銀座の日航ホテル内にあり、そこで面接と英語面接の順で行われた。
「1次試験のときは500人くらいいたのに、半分くらいごそっといなくなってた。そのとき改めて『ああ、私は筆記試験はクリア出来たんだ』っていう実感がわいてきたの」
まずは面接である。何を訊かれてもいいように、それなりに準備はしていた。廊下で待っていると、女性の社員が「田中敬子さん、お入り下さい」と声をかけた。促されるまま室内に入ると、5人くらいの面接官がずらっと並んでおり、それが日航の重役クラスであることは一目瞭然だった。
中央に座る最も威厳のありそうな男性が、敬子を見て開口一番こう言った。
「君は皇后陛下に似ているねえ」
「え」
「言われない?」
そう訊かれて、敬子の頭の中は真っ白になった。
「いえ、大変大変、畏れ多いことでございます……」
そこから何を話したかまったく記憶になく、「ああ、これはダメだ」と敬子は肩を落とした。
次の英語面接は3人1組のグループ面接で行われた。面接官はアメリカ人の男女で、女性の方はNHKラジオ『基礎英語』のパーソナリティでもあった。そこでも、敬子の右隣の女性がいわゆる帰国子女らしく、圧倒的な英語力を発揮していた。
「面接も英語面接も全然思うようにいかなくて、『ここまでかな』って思ったの。『これでいいや、私は大学に行きたいんだから』って自分に言い聞かせたりして」
すべての行程を終え、別室で待っていると、女性の職員が入って来て「今から呼び上げる方は、別室にご移動願います」と言った。
その中に田中敬子の名前もあった。別室に移動した50人を前に、女性は言った。
「みなさんは2次試験に通過しました。明日、身体検査と体力測定を行います」
(文中敬称略。以下次回、毎週金曜日配信予定)