不調の岩瀬を起用し続けた星野ジャパン
一方、選手と心中して失敗した例もある。2008年、北京五輪での星野仙一監督は中日時代の教え子である川上憲伸や岩瀬仁紀を不調でも起用し続け、金メダルを有望視されながら4位に終わった。
「シーズン中先発の川上を中継ぎ、クローザーの岩瀬を同点の場面やイニング跨ぎで起用した。岩瀬は予選の韓国戦、アメリカ戦で打たれて2敗を喫した。明らかに調子が上がっていなかったが、準決勝の韓国戦でも同点の8回という最も大事な場面で投げさせて、決勝2ランを浴びた。岩瀬には4試合0勝3敗、防御率11.57という成績が残りました」
中日に戻った岩瀬は、復帰初戦でクローザーとしてセーブを挙げた。この時、落合博満監督は「ちゃんとした使い方をすれば抑える」と言い放った。
「日本シリーズで打てない“逆シリーズ男”が必ず出てくるように、短期決戦では誰かが不調に陥る。監督がその選手に配慮して使えば、チームが迷走する。過去の国際大会を見れば、特定の選手との心中は危険です。代表選手になれば、個々の能力の差はあまりないと言っていい。1人にこだわると、控えの選手から不満が出ることもある。村上の今の状態が続くようならば、思い切って打順を7番、8番辺りに下げてもいい。2009年のWBCでは原辰徳監督が不調のイチローを使い続け、韓国との決勝戦でイチローは4安打しましたが、当時世界一のバッターでしたからね。イチローと今の村上を同格に考えるのは無理があります」
村上は東京五輪の決勝で先制ホームランを放ったり、シーズン最終打席で王貞治の記録を抜く56号を打ったり勝負強い一面を見せている。
「本番でも期待したいです。ただ、プレッシャーが掛かると力む傾向もある。一昨年、巨人の岡本和真が先にシーズンを終えた時点で、ヤクルトの村上は残り3試合あった。単独のホームラン王と打点王が取れそうな状況でした。その1試合目は猛打賞でしたが、2試合目は4打数ノーヒット2三振、3試合目は5打数ノーヒット4三振でした。
何度もチャンスの場面で回ってきたにもかかわらず、打点を1つも挙げられず、1打点差で打点王を逃し、ホームラン王は分け合う形になりました。昨年も55号を打ってからホームランが出なくなったり、日本シリーズでも不調になったりした。村上はプレッシャーを感じると、力が入り過ぎる傾向がある。東京五輪の決勝は8番でした。そのくらい気楽に打てる打順で試せば、復調するかもしれません」
史上最年少の三冠王と言っても、まだ23歳の村上に過度な期待は酷というもの。阪神、オリックスとの壮行試合でも結果が出なければ、栗山監督は村上の起用法を再考するのか。それとも、心中するのか。その決断が侍ジャパンの運命を握りそうだ。