「はっきり言って、ベビーカーって電車やバスの中では邪魔です。それは子育て経験がある人なら誰でもわかるし、親としての大変さもわかる。だからこそ、頑張って子育てしている人は応援したいし、配慮したい。それを”子供優先だ”とか”ベビーカーに配慮しろ”と言われると、流石にそれは違うんじゃないかと」
筆者や神田さんのように、ベビーカーをめぐる配慮が無かった時代を知っていると「今はよくなった」と感慨深い。他にも、鉄道各社が主に朝夕のラッシュ時に実施している「女性専用車両」についても、当初は男性差別の可能性を指摘する声も少なくはなかった。しかし、冷静に考えてみれば、痴漢など女性にとっての脅威があるから、鉄道各社がそうした客でも利用できるような善意による配慮をしているだけ。一時期、女性専用車両に乗り込んでいきわざとトラブルを起こしたり、動画を撮影しSNSにアップする男性とみられるネットユーザーもいたが、そうした人々は相手にされなくなった。
しかし本来、善意をむけられるだけで嬉しいはずなのだが、人とは欲が深い生き物で、与えられるのが当たり前になると、図々しくなる人が必ず出てくる。ところが、厚かましい言動をとる人たちは、自分は権利の行使をしているだけだから、非難されるいわれはないと本気で考えている。お互いがお互いを非常識だと思って歩み寄る余地がないので、両者の間でトラブルが呼び起こされる。
ホテルが期間限定プランを止めた理由
善意を受け取ることが「当たり前」になり、それを特権として勘違いしてしまう人も少なくない。聞き取りをすすめると、そう感じざるを得ないエピソードが更に噴出する。都内のホテル勤務・中里愛華さん(仮名・40代)は、そうした勘違い客に翻弄され続け疲弊している。
「ホテルのレストランでは、時期によって高齢者やお子様連れのお客様を優遇する複数のプランを打ち出しており、とても好評でした。しかし、いつ頃からか、高齢のお客様からは”子供がうるさい”とクレームが入り、逆に子連れのお客様からは”老人が長居しすぎている”とクレームが入るようになりました」(中里さん)
ホテル側は、食事がゆっくりになりがちな高齢者のための「滞在時間延長プラン」、そして騒がしい子供に親が気後れしなくていいように済む「個室プラン」をそれぞれ打ち出していた。いずれもホテル側の善意によるサービスだが、利用客同士が互いの待遇にケチを付けるようになってきたのだという。さらに、善意のサービスを「当たり前」と勘違いする客も増え続けているのだと続ける。
「期間限定のこうしたプランが利用できない期間にも、同様のサービスをしろと強要してくるお客様も増えました。あくまでも限定サービスだといっても、差別だひいきだと言われると、こちらも対応できない。結局、どちらのサービスも中止になり、プランが実施される時期を楽しみにしていた他のお客様からは苦言を呈され、誰にも感謝されないような終わり方になってしまいました」(中里さん)