その岩盤保守層の支持を引き継ぐ安倍派の面々はダンマリを決めこんでいる。文書作成当時の官房副長官で経緯を知りうる立場だったと思われる世耕弘成・参院幹事長は「真実を伝えているかどうかは別問題。関係者で精査してもらいたい」と他人事のような言い方をし、文書のテーマである放送法の解釈変更問題の後、自民党筆頭副幹事長として在京テレビキー局各社に“圧力文書”を送った萩生田光一・現政調会長は“飛び火は困る”と完全沈黙。さらに高市氏の総裁選出馬にあたって「推薦人代表」を務めた“盟友”の西村康稔・経産相も今回は逃げ腰だ。
政治評論家の伊藤達美氏も、高市更迭はないと見ている。
「この内閣はすでに4人の閣僚が辞任している。岸田首相にすれば、高市大臣を解任すれば5人目となって政権の失点になり、任命責任が問われる。また、高市氏の責任が確定しないまま切ってしまうと、保守陣営からの反発が強まる。こういう状況を考えると、解任はしないでしょう。
しかし、そうなれば世論の批判を浴び、支持率がもっと下がる可能性が高いが、支持率の“低空安定”は岸田政権の特徴でもある。首相は、党内にポスト岸田の有力な候補がいないから支持率が下がっても政権は持つと考えているのでしょう」
政権の生みの母を更迭した小泉元首相
かつて似た状況があった。小泉政権の田中真紀子・外相更迭問題だ。田中外相は総裁選での功績で「政権の生みの母」と呼ばれたが、外相就任以来、会談遅刻やドタキャンなど数々の問題を起こして事務方と対立。ついには日本のNGOの国際会議欠席の理由をめぐって田中外相が当時の外務次官と国会で「言った」「言わない」と争う異例の事態となった。
時の小泉純一郎・首相は「喧嘩両成敗」で田中外相と事務次官をともに更迭。一時は支持率が大きく下がったが、公平な対応に外務官僚の信頼を得たうえ、トラブルメーカーだった田中氏を早めに切ったことが長期政権のきっかけとなったという評価が定着している。
果断な決断で切るべき時に大臣を切った小泉首相は政権を安定させ、決断できない岸田首相は危機を迎えている。
高市氏が四面楚歌の中で辞任を否定し続けているのは、首相に対して、“辞めさせられるものならやってみろ。死なばもろともだ”と匕首を突きつけているように思える。
※週刊ポスト2023年3月31日号