昔と今を比較しないでいい
西鉄の同僚だった稲尾和久氏のピッチングについて聞いた時は、こう話していた。
「稲尾君もひとりで勝ったわけではないが、見ての通り、稲尾君のピッチングには力みがない。足腰のバネが強くて、コントロールがよかったということ。それと、球はクロスに来るが、外へのコントロールは絶妙なんです。いずれにしても稲尾君は短期決戦では打たれないピッチングができる投手だった。一度寝ると何時間でも寝るという神経の図太いところがある男だったなぁ」
そうして現役当時の逸話を聞いた後は、最後に必ずこう付け加えるのだった。
「マスコミはすぐに比較をするが、先人が残してくれたものを、いろいろと改良しながら進歩する。時代、時代で対処しているのだから、比較するのはナンセンス。ただ、いつの時代も順応できない選手はいる。それだけのこと。競争意識はいつの時代も変わらない。努力と無駄を省くことで、質のいいものになっていく。どのスポーツも同じだよ」
ものごとの本質を伝えようとしてくれる人だった。心よりご冥福をお祈りいたします。
◆取材・文/鵜飼克郎(ジャーナリスト)