江川:それって褒められているんですかね(笑)。
江夏:最高の褒め言葉よ。でも、実際グラウンドを離れてこうして接すると、今までの考えがものの見事に吹っ飛んでしまう。普通の好青年で、普通の野球選手なんだよね。
江川:先ほど天性だけで投げているっておっしゃっていたので、きっと努力してないと思われているんだろうなと。
江夏:努力はしたと思うけど、それが全然実になってない。
江川:うっ……(苦笑)。
江夏:俺は右バッターのアウトコースというのがひとつの「武器」だったけど、江川はどちらかといえば高め、胸元。それであれだけ抑えるんだから、相当真っ直ぐに自信があった証拠だよ。バッターが一番嫌がるのは胸元。そこを堂々と攻めていく、ある意味じゃ凄いなと感じさせる。今はそういうピッチャーがいない。というより、通用しない時代だからな。
江川:変わったタイプだったんでしょうね。一番危ないところに投げるんですから。
(第2回に続く)
【プロフィール】
江夏豊(えなつ・ゆたか)/1948年、兵庫県生まれ。1967年に阪神タイガース入団後、南海、広島、日本ハム、西武と渡り歩く。1984年に引退。シーズン401奪三振、最優秀救援投手5回は現在も日本記録。通算206勝、193セーブ。オールスターでの9連続奪三振、日本シリーズでの「江夏の21球」など様々な伝説を持つ。
江川卓(えがわ・すぐる)/1955年、福島県生まれ。作新学院にて数々の記録を達成した後、法政大学に進学しエースとして活躍。米・南加大野球留学を経て、1979年に読売ジャイアンツに入団。MVPなど多数の記録を残し、1987年に引退。現在は野球解説など多方面に活躍中でYouTubeチャンネル「江川卓のたかされ」が話題。
【聞き手】
松永多佳倫(まつなが・たかりん)/ノンフィクション作家。1968年、岐阜県生まれ。琉球大卒業後、沖縄に完全移住し執筆活動開始。『確執と信念 スジを通した男たち』(扶桑社)、『第二の人生で勝ち組になる 前職:プロ野球選手』(KADOKAWA)など著書多数。
※週刊ポスト2023年6月9・16日号