悲しいのは、やがて身内全員が本人は認知症だと認識したらすべての誤解が解けるかというとそんなことはなくて、小骨が刺さったまま。そんなケースも多いんじゃないかしら。
幸い、娘は何度か実家で母親の面倒を見ているうちに、自分の手に負えないことを実感して、母親の特別養護老人ホームへの入居を決めて、一件落着したんだけどね。
先日、そんな叔母から明るい声で電話がきた。
「あら、ヒロコちゃん? 私、大勢の人と旅行に来たみたいなのよ。そろそろ帰ろうと思うんだけど迎えに来てくれないかしら」──。二度と生きて自宅に帰ることはないと本人はわかっていないのよね。ちょっと救われた気がしたわ。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2023年8月3日号