性的少数者の呼称が長くなる理由
近年の理解では、セクシュアリティ(性のあり方)は連続しており、分布の端にはさまざまな性的少数者(マイノリティ)がいるとされる。だがこれだと、性的マイノリティの分類はどんどん増えていくだろう。
「LGBTQIA+」という呼称では、LGBTに加えて、Q=クィア(規範的な性のあり方から外れている)/クエスチョニング(自身の性自認・性的指向が決まっていない)、I=インターセックス(内・外性器や染色体、ホルモンなどのレベルで解剖学上の「男/女」の定義とは一致しない先天的な状態で生まれてきた)、A=アセクシュアル(他者に対して性的欲求を抱かない)/アロマンス(他者に対して恋愛感情を抱かない)を性的少数者とし、最後の「+」はそれ以外のさまざまなジェンダー・セクシュアリティを指すのだという。
どんどん長くなるアルファベットは「社会正義」の運動のバカバカしさの好例としてしばしば取り上げられるが、ここにはジェンダー・アイデンティティについての真剣な問いがある。
たとえば、明らかに外性器の異なるインターセックスは人口の0.05%(2000人に1人)といわれるが、「医学的に正常でない性器」に範囲を拡大すると、その比率は0.3%(およそ300人に1人)まで上がる。それに対してトランスジェンダーの割合は0.5%程度(200人に1人)とされている。
だとしたら、「性的少数者のカテゴリーに(LGBTのように)T(トランスジェンダー)を加えてI(インターセックス)を排除する理由はなんなのか」が問われるのは避けられない。実際、インターセックスの活動家からは、「LGBTQ+」の呼称に対して、自分たちはたんなる「プラス」ではないとの抗議の声があがっている。このようにして、近年のプライドパレード(性的少数者の「自分らしく生きる権利」を支援するパレード)では「LGBTQIA+」が使われるようになったのだが、それにはじゅうぶんな理由があるのだ。
(橘玲・著『世界はなぜ地獄になるのか』より一部抜粋して再構成)
【プロフィール】
橘玲(たちばな・あきら)/1959年生まれ。作家。国際金融小説『マネーロンダリング』『タックスヘイヴン』などのほか、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『幸福の「資本」論』など金融・人生設計に関する著作も多数。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。リベラル化する社会をテーマとした評論に『上級国民/下級国民』『無理ゲー社会』がある。最新刊は『世界はなぜ地獄になるのか』(小学館新書)。