坊主じゃない方が普通になる
そんな大谷がいまも大事にしているのが、「先入観は可能を不可能にする」という言葉だという。この言葉を大谷に授けた人こそ、花巻東高校時代の指導者・佐々木洋監督(48才)だ。菊池雄星(32才)、大谷という2人のメジャーリーガーの恩師にして、花巻東を強豪校に導いた佐々木監督の担当科目は日本史。趣味は盆栽で、カラオケの十八番は浜田省吾だという。
「プロを目指して岩手県の公立高から国士舘大学に進学した佐々木監督ですが、2年生のときに当時は“戦力外通告”にも等しい退寮を命じられました。その経験から“夢を具体的な目標にする”ことの大切さに気づいたそうです。指導者になってからの経営学の知識を指導に生かす手法は斬新で、『革新的すぎて周囲が追い付けない部分もあった。勝海舟みたいな人』と評されたこともあります」(前出・学校関係者)
今夏の甲子園では、慶應を筆頭に「坊主頭でない」球児たちの姿が話題になったが、花巻東も5年前に坊主頭をやめている。
「当時、佐々木監督は『5年後には坊主じゃない方が普通になる』と話していました。まさに時代を先取りする指導者で、選手を型にはめず、個性を伸ばす育成手腕は全国屈指と評判です」(アマチュア野球担当記者)
佐々木監督の指導のもと、花巻東は2009年のセンバツで岩手県勢初の準優勝。夏の甲子園でもベスト4入りを果たす。エースだった菊池はドラフト会議で6球団から1位指名を受け、西武に入団。現在はブルージェイズで活躍中だ。
「大谷選手は3才年上の菊池選手に憧れて花巻東に入学しました。しかし、佐々木監督は『雄星みたいになりたい、ではダメだ』と言って、大谷選手に『雄星が6球団指名なら、お前は8球団だ』と菊池選手を超える目標を立てさせました。誰かを目指すとその下までしか届かない。先輩たちに憧れるのではなく、超えようと思うことが大切だというのです」(スポーツ紙記者)
6畳一間で一夜を明かした
高校時代の大谷は未完の大器だった。
「同級生で春夏連覇した大阪桐蔭の藤浪選手に比べると、高校時代の大谷選手は粗削りの状態。下半身の強化が充分でないまま、160kmを投げていた。2年のときには股関節の痛みに苦しみましたが、そのとき佐々木監督は大谷選手を痛みの出ない打撃練習に専念させました。『早熟する必要はない』と、甲子園出場のために大谷選手を犠牲にすることは決してしなかった」(前出・アマチュア野球担当記者)