日程でとりわけ注目されたのは一行の宿泊先だった。今回、天皇・皇后はパラオの宿泊施設ではなく、洋上に停泊する海上保安庁巡視船「あきつしま」の船長室に宿泊する。
異例の船中泊が決まるまでには滞在を巡って官邸と宮内庁の間で駆け引きがあったという。官邸筋が明かす。
「パラオの警察官はわずか200人で、警備にあたるのは50人足らず。警備態勢の整ったホテルもないため、訪問はご遠慮いただきたいというのが官邸側の本音だった」
だが、それをはねのけたのは「天皇の意向」といわれている。
「パラオ訪問が警備の都合で実現しなかった経緯を残念に思っておられる両陛下が、“宿泊は船内でも構わない”との見解を示されたと聞きます」(ベテラン皇室記者)(以下略)〉
(『週刊ポスト』2015年4月10日号 小学館刊)
このご訪問が大歓迎されたことは、言うまでも無いだろう。その他、南洋庁が置かれた島々も簡単に紹介しておこう。
ヤップ島はカロリン諸島の西部にある島々で、ヤップ、ルムング、マップ、ガギル・トミルの四島が密接しているのでヤップ諸島ともいう。陸地面積は約百平方キロメートル。日本人は「島」というと小さな地域を連想するが、南太平洋のニューギニア島やアフリカ大陸に隣接するマダガスカル島は日本よりはるかに大きいし、中央アジアと東ヨーロッパの間にある世界最大の湖「カスピ海」は、日本とほぼ同じ大きさである。世界は広いのだ。
このヤップ島は南太平洋地域では古くから独自の文明が発達した地域で、人間の背丈を越えるものもある石製の貨幣「石貨」でも有名である。この貨幣は、流通するというよりは所有権が移転する形で財貨として使われていたらしい。
またトラック島も諸島で陸地面積は約百平方キロメートルあるが、その特徴は火山活動によって形成された大環礁があることだ。サンゴ礁が島を取り囲む堤防のようにつながっているということで、その内側の湾は太平洋の荒波が遮断された天然の良港になっている。
ここも日米激戦の地となった。戦艦『大和』など大型艦が停泊するのに適していたため、聯合艦隊の基地とされたからである。
(第1392回に続く)
【プロフィール】
井沢元彦(いざわ・もとひこ)/作家。1954年愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。TBS報道局記者時代の1980年に、『猿丸幻視行』で第26回江戸川乱歩賞を受賞、歴史推理小説に独自の世界を拓く。本連載をまとめた『逆説の日本史』シリーズのほか、『天皇になろうとした将軍』『「言霊の国」解体新書』など著書多数。現在は執筆活動以外にも活躍の場を広げ、YouTubeチャンネル「井沢元彦の逆説チャンネル」にて動画コンテンツも無料配信中。
※週刊ポスト2023年9月8日号