私はてっきり自国に対して恨みがましい思いがあると思っていたのよね。ところがテイさんは、あきらめたような顔で私を見て、「日本にいたら中国のことはわからないよ。日本人には理解できないと思う」と言うの。私のミスをさりげなくフォローしてくれるいつものテイさんとはまったく別の厳しい表情で。
よその国のことをわかったようなつもりになるもんじゃないなと、そのとき思ったんだよね。なのにそれから10年後、またやらかしたんだわ。
“乗り鉄”の私は、鉄仲間と香港から上海まで寝台特急列車で旅をしたのね。上海には鉄仲間の知人が駐在していて、便宜を図ってくれるという。
パリやローマでも駐在員と食事をすることが何度かあったので、同じような感じかとお気楽に約束の店に行ったら、挨拶もそこそこに彼の顔が引きつり出したんだわ。それだけじゃない。「そういうことは言わないでください」と小声で制止されたのよ。私は当たり障りのない上海の印象を話したつもりだったんだけど、それがダメだって。いまでもあのときの地雷が何だったのかはわからないけれど、ひとつだけわかったことがあるの。それはよその国の事情はわからないということ。そんな話を世界70か国以上を旅している知人に話したら、「当たり前です。大勢の人がいるところでどんなことを言っても問題にならないのは日本くらいですから」だって。
とはいえ、冒頭のニュースで「それはないない」と断固否定できることがひとつだけある。それは中国人女性が日本製の化粧品を手放すことはないということ。数年前、パリの2段ベッドが並ぶ安宿に泊まったら、中国から来た若い女性から日本製の化粧品がどれほど優れているか、中国人の肌に合うかを英語で力説されたことがあるの。彼女の英語は半分もわからなかったけれど、「しせーどー」と言うときの舌で転がすような口ぶりは、しかと脳裏に刻み込まれちゃった。きれいになりたいという女心にお国柄も何もないんだよね。
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2023年9月21日号